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#6 四の五の言わずに宵の口
「つばき、また可愛い。ていうか、最近、毎日可愛い」
プラスチックのスプーンを手にわたしを見つめる茉以子のお弁当こそ、また可愛い。ピラフのミックスベジタブルと、横に添えられたミニトマトがカラフルだ。
「そのサマーニット、どこの?スクエアネック、可愛い」
「前に茉以子に連れて行ってもらったお店、もう一度行ってみたの。これならあんまり目立たないかなって」
「なにが?」
「胸」
店員さんによると、わたしのような貧相な──もとい、痩せ型は、Vネックを着るとさらに貧相に見えてしまうらしい。それを解決するのが、綺麗にデコルテを見せられるスクエアネックなのだとか。
「そんなに気にするほどかなぁ。なに着ても太って見えないし、羨ましいけどな」
「それ、ある人のセリフ」
今晩のメインのおかずは、千切りにした生姜を豚ロース肉で巻いたもの。昨晩仕込んでおいたものを早起きして焼いたのだ。
副菜は夏野菜のマリネと、ピーマンとナスの味噌炒め。お味噌汁を作るかどうかは、考え中。
──また、おまえの作った飯、食いたい。
あんなことを言われてしまっては、少しも浮かれないなんて難しい。たかられているのではとか、飯炊き女だと思われるのではとか、また妙な雰囲気になるのではとか、ネガティブな発想が一切ないわけではないけれど。
「やっぱり佐野さんの影響?あれだけイケメンで洗練されてると、隣歩くの緊張するよねぇ」
「そういうわけじゃ」
「あれ、違うの?昨日来社してたの、つばき目当てだと思ってた」
連日の暑さを吹き飛ばすような爽やかな笑顔で、「いつもお世話になっています」とトマトゼリーとハスカップゼリーの詰め合わせを置いていった佐野さんを思い出す。予想どおり、間中ちゃんは目をハート型にして大喜びだった。
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