#1 三年越しの宵のあと

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「あいつは、持ちすぎてるくらいいろんなものを持ってる。昔から羨ましくてたまらなかった」 「昔から?」 「幼なじみなんだ。で、初恋同士。ベタすぎるだろ」 「でも、ぶち壊したの?」 「俺は、あいつにひどいことをした。……好き、だったから」  その二文字を、とても抱えきれそうになかった。  心臓を一気に貫かれたような痛みに、今度はわたしが足を止める番だった。吐き気がするのは、お酒のせいではない。 「……結婚、したんでしょ」 「ああ、すっげえいい男と。あれには勝てねえわ」  東と寝た、という女性社員を何人か知っている。いつ、どこで、どうやってそうなるのだろう。考えてみては無駄だと打ち捨てた。少なくとも、わたしがそう(・・)なる可能性はゼロに等しい。 「甘え上手で可愛いだけかと思ったら大間違い」「一度したらほっとけなくなって」「好きになっちゃう」「でも、彼女にはなれない」  知らなかった。東が、誰かを本気で好きだったなんて。 「ふらふら……不特定多数と、遊んでなんかいるから」  二次会カラオケどうすか、と立ちはだかる客引きを俯いてやり過ごし、ニッカの看板の前で赤信号に引っ掛かった。嬉しい偶然だ。いつもなら。 「余計なお世話だよ。誰にも迷惑かけてねえだろ」 「いろいろ聞こえてくるの。……信じらんない。東となんて、絶対にしたくない」  喧騒に紛れてしまえばいい、と思ったときに限って聞こえるらしい。怪訝そうに顔を顰めた東のワイシャツに、ぎゅっと掴みかかった。信号が、青に変わる。 「……なんだよ」 「好きな人がいるのに、いろんな人とする、なんて」 「だから、余計な」 「じゃあそれ、わたしでもいいんじゃないの」
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