#6 四の五の言わずに宵の口

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 どうして梁川さんと仲いいの、と尋ねてくるのは、なにも男性ばかりではない。  だけど、女性のそれはニュアンスがまったく違う。どうして──年甲斐もなくブリッコ(・・・・)で、男に見境なく色目を使って、わたしが世界で一番可愛いですぅ、って撒き散らしているような女と──仲がいいの?どろどろとした悪意が、その短い問いの中に詰まっているのだ。 「でも、目移りされるほうにも原因があるよね。ずっと魅力的でいられるような女性なら、何年経っても好きでいてもらえると思うの」 「茉以子、言うね。たぶん聞こえてるよ」 「みんな、つばきみたいにさばさばしてたらいいのに。女の人って、物事を論理的に考えるのが苦手だもんね」 「わたしもそんなに得意じゃないよ」  自分に自信がないから、本当は弱いから、虚勢を張って「さばさば」なふりをしているだけ。わたしだって、心の底はどろどろしてる。だから言えないじゃない。茉以子にも、本人にも。 「ううん。つばきは、物事の良し悪しを見極めるのがすごく上手。曇ってない、まっすぐな目線で周りを見れる人だよ」  そういうところが好きだし羨ましいの、と猫のような目で見つめられて胸がざわついた。きっと嘘じゃない。だけど、言葉どおりに受け取れない。買い被りすぎだよ、と目を伏せてお弁当箱に蓋をした。  茉以子は強い。わたしなんかよりもずっと。  その強さが羨ましくて眩しい。可愛くいられるということは強さだ。可愛い自分を信じて疑わない彼女の強さを、妬ましく思う日だってある。  だから、東のことは言えない。三年間も気持ちを燻らせているなんて知られたくない。告白しちゃいなよ、なんて言われたくない。  特に、茉以子には。長い間、喉に刺さった小骨のように気になっていることがある。茉以子は東を、ただの同期としか見ていないのだろうか。なぜ、東のことだけを下の名前で呼んでいるのだろうか。
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