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──Side 隆平
「終わったら連絡しろよ。20時くらいまでなら残業してるし、それ以降でも」
今夜の約束が潰れたこと、おまえはどう思ってる?少しは残念だと思ってるのか?俺のことが嫌いだと言っていたくせに、プライベートの時間を一緒に過ごすのは嫌じゃないのか?
「うん。……せっかく、ご飯作ってきたのにな」
ぽつりと零れたセリフに顔がカッと熱くなって、ふらつきそうになるのを必死で堪えた。それもこれも、会議室がクソ暑いせいだ。
「わざわざ作ってきたのか」
「だって、食べたいって言うから」
「なに、作ってくれたんだ?」
「生姜を千切りにして豚ロースで巻いたやつと、夏野菜の、パプリカとかズッキーニのマリネと……あ、東って好き嫌いある?わたしが作るものって、野菜が多くて……」
あまりの暑さに目眩がした。誰かこいつの口を止めてくれ、と思ったけど、止められるのは俺しかいない。だから、塞いだ。
昨日も遅くまで残業していたはずだ。昨夜か今朝か知らないが、そんな手の込んでそうなものを作りやがって。……俺の、ために?
「……無理、させたか?」
華奢な身体を腕の中に収めると、安心感と甘酸っぱい気持ちが同時に襲ってきた。薄い背中を撫で、ほんのりと甘い匂いが漂う髪に鼻を擦りつける。
「そんな……普段どおりだよ。いつもちゃんと料理してるもん。東と違って」
「それならいいけど」
「でも、品数は多いかも。食べたいなんて言われたら、ちょっとは頑張って作るし。やっぱり不味い、とか思われたくないし」
嫌いなら突き飛ばしてくれればいいのに、腕を躊躇いがちに回しやがるからこちらも離す気になれない。
なにをやってるんだ、俺は。仕事は溜まってるし外勤に出ないといけないし、そもそもここは会社だぞ。誰かに見られたら最悪だ。
「じゃあ、終わったらすぐ連絡しろよ。食いたい」
もう一度唇にキスしたら止められなくなりそうなので、頬にキスを落とした。めちゃくちゃに掻き乱されている。その自覚は、ある。
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