#6 四の五の言わずに宵の口

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──Side 隆平 「終わったら連絡しろよ。20時くらいまでなら残業してるし、それ以降でも」  今夜の約束が潰れたこと、おまえはどう思ってる?少しは残念だと思ってるのか?俺のことが嫌いだと言っていたくせに、プライベートの時間を一緒に過ごすのは嫌じゃないのか? 「うん。……せっかく、ご飯作ってきたのにな」  ぽつりと零れたセリフに顔がカッと熱くなって、ふらつきそうになるのを必死で堪えた。それもこれも、会議室がクソ暑いせいだ。 「わざわざ作ってきたのか」 「だって、食べたいって言うから」 「なに、作ってくれたんだ?」 「生姜を千切りにして豚ロースで巻いたやつと、夏野菜の、パプリカとかズッキーニのマリネと……あ、東って好き嫌いある?わたしが作るものって、野菜が多くて……」  あまりの暑さに目眩がした。誰かこいつの口を止めてくれ、と思ったけど、止められるのは俺しかいない。だから、塞いだ。  昨日も遅くまで残業していたはずだ。昨夜か今朝か知らないが、そんな手の込んでそうなものを作りやがって。……俺の、ために? 「……無理、させたか?」  華奢な身体を腕の中に収めると、安心感と甘酸っぱい気持ちが同時に襲ってきた。薄い背中を撫で、ほんのりと甘い匂いが漂う髪に鼻を擦りつける。 「そんな……普段どおりだよ。いつもちゃんと料理してるもん。東と違って」 「それならいいけど」 「でも、品数は多いかも。食べたいなんて言われたら、ちょっとは頑張って作るし。やっぱり不味い、とか思われたくないし」  嫌いなら突き飛ばしてくれればいいのに、腕を躊躇いがちに回しやがるからこちらも離す気になれない。 なにをやってるんだ、俺は。仕事は溜まってるし外勤に出ないといけないし、そもそもここは会社だぞ。誰かに見られたら最悪だ。 「じゃあ、終わったらすぐ連絡しろよ。食いたい」  もう一度唇にキスしたら止められなくなりそうなので、頬にキスを落とした。めちゃくちゃに掻き乱されている。その自覚は、ある。
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