第一章 ゲームの世界

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 このハーボは五年前に発売された初期モデルで、現在発売されている最新機種は学習機能がついてかなりハイレベルな受け答えができるらしい。しかしみのりはこの初代ハーボのデザインが気に入っていてずっと使っていた。もっとも、最新のハーボが欲しいと言ったところで買ってもらえるはずはなかった。  部屋を出ると、隣の部屋から小さな音でファンファーレが聞こえた。兄の秀矢(しゅうや)が「スターコロシアム」でまた一位になったのだろうとみのりは思った。  スターコロシアムは今大人気のバトルロイヤルゲームだ。パソコン版が一番勝てるというので、秀矢は「勉強に使うから」とうそをついて高価なゲーミングパソコンを買ってもらった。そのときいらなくなったからと言ってもらったゲーム機が、今みのりの枕の下に突っ込まれているものだ。ハーボも秀矢からのお下がりだ。  剣崎家では、秀矢とみのりの扱いが全然違う。秀矢は私立の中高一貫校に通っているが、みのりが今年入学したのは近所の公立中学校だ。  みのりが小学四年生になったとき、秀矢は中高一貫校に入学した。近所の中学校の黒い学ランではなく、グレーのブレザーを着て赤いネクタイを締めた兄はとても格好良く見えた。その学校は赤いリボンとモスグリーンのスカートの女子の制服がかわいいと評判だった。みのりは「私もあれを着るのだろうか」とわくわくし、そのためにはたくさん勉強しなければならないのだと思っていた。そんなみのりに、お母さんは言った。
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