第六章 天頂の剣

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「本当に持ってきてないのかよ。今日、金持ってこなかったらどうなるかわかってんだよな」  大山がそう言いながら、駆の胸倉に手をかけた。みのりは勇気を出して大声を上げた。 「おまわりさーん、どろぼうでーす! 友達のお金を取ろうとしている人がいまーす!」  突然聞こえてきた声に男子たちが慌てふためいた。運がいいことにパトロール中の警察車両が公園の前を通ったので、男子三人は駆の鞄を投げ捨てて児童公園から逃げ出した。  生垣の陰から公園をそっと覗くと、駆が呆然として座り込んでいた。みのりはそのまま帰ろうかとも思ったが、駆に声をかけてみることにした。 「薬師寺くん、えっと……久しぶり」  駆はゆっくりと顔を上げた。体の大きな大山に胸倉をつかまれたせいで、制服の胸元がぐちゃぐちゃになっている。 「えっと、あの……あいつらにいじめられてんの?」  駆は下を向いてしまった。久しぶりに会った小学校の元同級生の女子にいじめの現場を見られるというのは、あまり気分のいいものではないだろう。失敗した、とみのりは思った。  駆は水やりを忘れた朝顔のようにしょんぼりしている。ゲーム内で「ダッシュ」として顔を合わせている気安さからつい声をかけてしまったが、現実(リアル)で話すのは小学校以来だ。 「……元気出してよ、今日は天頂の剣を取りに行くんでしょ?」  下を向いていた駆がゆっくりと顔を上げる。見開かれたその目は、驚いているようにも「一体何を言っているんだ」とぽかんとしているようにも見える。
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