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1. ショッピングモールの駐車場
「なんで・・、なんでだよお・・。俺は・・、俺は、すごく楽しみなのに・・。こんなに・・、こんなに楽しみにしてんのに・・」
15分ほど前、そう言いながら四十面ぶら下げてべしょべしょ泣いた木崎は、今、コーヒーショップの使い捨てカップを手に、人口40万弱の地方都市最大のショッピングモールの地下駐車場で、自分の車の運転席に座っている。
ここはローズピンクというのか、紫に近い濃いピンクの『E』のエリア。灰色のコンクリートと、蛍光灯だかLEDだかの白々とした照明の無機質な印象を少しでも和らげたいという意図なのだろう、太い四角柱に描かれた駐車区画の表示は、どれも毒々しいまでの原色だ。
聖子は助手席で、おそろいの容器のなかでまだまだ盛大に湯気を立てているブラックコーヒーにふうふう息を吹きかけながら、間欠的に襲ってくる笑いの発作を鎮めるのに四苦八苦していた。
噴き出しそうになる原因は、木崎のぶんむくれた顔だ。どこから見ても1ヶ月半前に5歳になったばかりの木崎の息子、竜にそっくりなのだから。だったら見なければいいだけの話だ。だからあえてコーヒーを吹き冷ますことに集中する。
しかもここで笑ったりしたら、木崎は今以上に拗ねて、限りなくめんどくさくなること必至だ。
聖子はひとつ大きく息をついて、コーヒーをひとくちすすった。
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