1.  ショッピングモールの駐車場

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 病室を覗くと、市川がベッドサイドに座っているのが目に入った。背を起こしたベッドで寛いだ姿勢の木崎とふたり、深刻な様子で静かに話している。木崎の腕には点滴の針が刺さっていた。  聖子を認めて、木崎が安堵したような笑みを浮かべた。これはあまり楽しくない話題だぞ、と聖子は直感した。ひょっとして厄介な相談ごとなのか。 「市川くん、来てくれてたんだ。今日はよかったのに」  過労でぶっ倒れた入院中の雇い主に面倒な話を振らないでくれと、この時の聖子は市川に敵意を抱いた。 「あ、常連さんのこととか、ちょっと伝えたくて」  ふうん、と応えた裏の声は、そんなこた携帯メッセージで事足りるだろ、だ。我ながら、あの視線は強すぎたと、今は反省している。だが裏を返せば、それだけ木崎の身体を心配していたということにもなる。  聖子は、木崎が入院したと聞いてからのこの一日で、自分がどれほどの感情を木崎に抱いているのかを思い知った気がした。市川からの一報を聞いた瞬間から、ずっと鎮まることのない動揺が続いていた。いつもと同じ『ヨギちゃん』でいようと努めているつもりだが、泣き喚きたいという小さな願望が心のどこかに常にある。だが決してそれは表に出さない。竜や市川にそんな姿は見せられない。木崎にしても、聖子よりたった一歳ではあるが、年下だ。気丈、という単語が頭に浮かんだ。それを人は「ヨギちゃんらしい」と言うのだろうと思った。
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