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ドアを開けるなり、竜がもどかしそうに靴を脱ぎ捨て、「パパーあ」と叫びながら廊下を走った。
木崎がリビングの入り口で竜を抱き留めた。
「竜、ごめんよ。もう大丈夫だからな」
「パパ、病気、治った?」
「病気なんかじゃなかったんだぞお。ちょっとお仕事しすぎて、ぐったりしちゃっただけなんだ。お医者さんも、問題ない、って言ってくれたんだから」
満面の笑顔で抱き合う父と息子を微笑ましく見ていた聖子が「退院、おめでとう。ほんと、よかった」と、ゆっくりと言った。
自分でも驚くほど気持ちのこもった声が出た。
木崎が顔をあげて聖子を見て、ああ、と応え、つい、と視線を逸らせた。
え?
木崎はまた竜に頬ずりをして、「ごめんなあ。あん時は、びっくりしたよなあ。竜を泣かしちゃったもんなあ」などと甘い声を出している。
その時、聖子は初めて、自分は間違ったのかもしれない、と思った。
籍を入れようと言いだしたのは聖子だ。それは竜のためであり、木崎が竜の親権を得るためでもあったが、当然のことながら、自分の気持ちがなければそんなことを考えるはずもない。
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