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「バカはやめてって言うたやん。関西人はバカって言われたら、知能を全面否定されたと感じるの。アホで返すぞ」
「アホはだめだって。最低の間抜け面しか思い浮かばん。あ、そっちこそ、ヨギちゃんと木崎さんの初対面に同席してたんだろ。マスター、カッコいい、クール、とか、思ったんじゃないのか」
「残念でしたあ。わたしはチャラい男はタイプやないの。それにわたし、知ってたもーん、木崎さんがピンポイントでヨギちゃんのタイプやってこと。意外とチャラ系、好きなんよね。木崎さんもさあ、わたしらがカウンターに座って、ヨギちゃんを見た瞬間から、視線が、もう笑っちゃうくらいびんびんヨギちゃんに来てたんだからあ。あれはまさに、レーザービーム」と、歌うようにささやいて西澤の鼻の頭を人差し指でぎゅっと押す。「わたしのことなんか記憶に残らんかったんちゃうかな」
「俺のこと、さんざんチャラ男呼ばわりしてたくせに」
寄り目になったまま、啓子の手首をつかんで顔から離す。
えへへ、と笑う啓子に西澤が深い口づけをした。
「なあ、明日、ついでにベッドも見ようよ」
「ベッド?」
「うん。ひとつセミダブルにしよう。この部屋だったら大丈夫だろ」
「まあ……、入らなくはないけど。でも、なんで」
「ん……。なんか寂しいじゃん。その……、終わったら、さっさと、はい、さようなら、みたいなの……。朝まで手つないで寝たいとか、思わない……?」
「乙女ワールドに住むチャラ男さん……。車のローンが終わったら」
「ええーっ、そんなあ、御無体な」
「なにが御無体じゃ。欲しかったら給料上がるように仕事しろ。あ、ヨギちゃんが人事に推薦しといてやるってさ」
「俺を? 人事に? やめてくれー。できるわけないだろー。今より責任あるポジションは無理だって」
「今よりって、今、ほとんどないやん。欲のないおじさん」
「今の俺の欲は、啓ちゃんだけ……」
「あほ……」
春真っ盛りの土曜日の夜は更けていく。
おしまい
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