1.  ショッピングモールの駐車場

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 初対面でいきなりひどく懐いてくれ、誰に対しても「ヨギちゃんはぼくの友だち」と宣言する竜がかわいくてたまらなくなり、竜の母親であり木崎の別れた妻である有佳が、新たなパートナーのタイガという前衛舞踏家と瀬戸内海に浮かぶ孤島に移住する計画を立てており、しかもふたりのあいだに子どもまで生まれようとしていることを知ったとなれば、聖子の性格では黙ってはいられなかった。  でも、たとえ発端はそうであれ、相手が木崎でなければ、そんな酔狂な提案をしようなど思いもつかなかっただろう。そこには確信がある。「ヨギちゃんのことがずっと大好きだった」と言ってくれた木崎にも報いたかった。  そして、意外なことに、籍を入れたあとから、聖子は木崎と一緒にいる時間の自分をどんどん好きになっていった。これまで誰といる時にも感じたことがない安心感に包まれた。すべてを受け容れてもらえていると実感することができた。  だからこそ、こんなにほっとしているのに。本当によかったと、心から喜んでいるというのに。  保育園で描いた絵を見せようと、竜がここでの自分の寝室になっている奥の小部屋へと木崎の手を引いていった。その父と子の背中を目で追いながら、聖子はしばらく何も考えられなかった。
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