2.  まだショッピングモールの駐車場

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2.  まだショッピングモールの駐車場

「なんであんなつれない態度だったの……。わたしは、ショックだった……」 「それは……、その……、いろいろと考えてたから……」  エンジンをかけていない車のなかで、聖子は薄手のコートを、木崎は年季の入った焦茶色の皮ジャンを羽織ったまま、コーヒーの入った紙コップを手に、フロントガラス越しに殺風景な駐車場を眺めながら話している。  日曜日の午後だから、車に乗ったり降りたりの家族連れの流れは途切れない。時折、子どもの嬌声が四囲のコンクリートに反響する。 「何を」 「うん……、やっぱ、ヨギちゃんに助けてもらわないと、な……」  木崎が独り言のように口のなかだけでもぞもぞ言ったが、密閉空間の車内では丸聞こえだ。 「だから、何を」 「うん……。あのさ、市川がさ……、あいつが、大学、やめたいって、言いだして……」 「は?」と聖子が体の向きを変え、木崎の沈んだ横顔を見た。「なんで……。え、市川くんって、何年生だっけ」 「4年……」 「え、ええ、ええーっ。ああ、わたし、バカなこと訊いた。学校、大丈夫、とか訊いた。ああーっ、バカじゃん。ぜんぜん冷静じゃなかった。パニックか。3月じゃん。大学なんて休みじゃん。しかも4年生って、あ、そりゃそうか、バーのバイトって、二十歳超えてなきゃダメか。でも4年で3月って、え、ええ、卒業? え、卒業できないの? あ、ああ、そりゃそうか。ずっとバイトしてたもん。卒論なんて、書けるわけないじゃん。就活もしてないじゃん。そうか、それでか。なんかいつもと様子が違うって思った。でも、どうすんの。大学やめて、なにすんの。なに考えてんの、あの美形男子」
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