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知り合って3年と少しになるが、ここまでいじけた態度を見せられたのは初めてだ。
もっとも、その『3年と少し』のうちの最初の1年は、聖子は木崎の店の常連のひとりでしかなかったし、次の2年間は、バーのマスターと客でありながら月に1回ほどベッドをともにするというだけの間柄だったから、お互い気は合うけれど、性格を熟知する相手とまではいえなかった。
それが残りの『少し』のあいだにふたりの関係は激変した。詳細をいえば、木崎のもとに前妻とのあいだに生まれた息子がやってきたのが去年12月の始め。そしてその5週間後には、聖子と木崎は婚姻届を出して配偶者同士になってしまったのだから、いまだどちらにとっても掘れば掘るだけ相手の知らないことが飛び出してくるというのが現状だ。
「どう。ちょっとは落ち着いた?」
唇をとがらせて、まだ拗ねている横顔を視野に入れないよう細心の注意をはらって、聖子が訊いた。
「ヨギちゃんが悪い」
カップのなかに目を遣ったまま、ぼそりと言う。
「はいはい」
「はい、は1回」
相変わらず手元の容器に言葉を落とす。
「でもさ、木崎……、この機会だから言わせてもらうけど、そもそもの源をたどれば、あんたなんだよ。あんたの態度のせいで、わたしが、まあ、ガラにもなく、っていうかな、ちょっと不安に……」
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