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「なんでだよ」と、叫ぶように言って勢いよく体の向きを変えた木崎が、熱っ、と足を跳ねあげ、その拍子にまたもやコーヒーが飲み口から少量こぼれ出て、あつあつ、を何度か繰り返し、聖子が自分のカップに蓋をして両足のあいだに挟み、ダッシュボードの端に乗っていたティッシュの箱から数枚を抜き出してベージュのパンツの膝上を拭き、中央コンソールのドリンクホルダーにカップをふたつ置いて、ようやくふたりともひと息ついた。
「子どもか」
「そうだよ。俺、5歳児だから……。竜と同じだし……」
「ま、知ってたけど」と言った直後、たまらず噴き出した。
「なんだよ。何がそんなに面白いんだ。さっきからずーっとにやにや笑ってただろ。こっちはこんなに真剣なのに。俺の……、ヨギちゃんは俺の気持ちなんて、これっぽっちもわかってくれようとしないんだ。俺は……、俺はすごく楽しみにしてるのに。3人で住めるって。3人で暮らせるのが、楽しみで楽しみでしかたないのに。なんなんだ、その態度。俺の態度がどうとかって以前に、そっちの態度が問題……」
「違う、違うんだって。そうじゃなくて……」
「何がどう違うんだよっ」
「その顔」
「悪かったな、この顔しか持ち合わせてなくて」
「いやいや、だからそうじゃないって……。そっくりなんだよ、あんたの顔。竜にそっくり」
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