1.  ショッピングモールの駐車場

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 木崎が、うぐ、と喉でゲップを飲み込むような音を鳴らして言葉に詰まった。 「そ……、そりゃあ、竜は俺の息子だ……。似てて当然だろ」と、勢いを失くしたかと思えばすぐに回復する。「それに……、それにな、俺が竜に似てるんじゃない。竜が、俺に似たんだ。逆だろ。順番が逆だ」 「まあ、そうなんだろうけどさ。顔立ちはそれほど似てないんだよねえ。ま、これから竜の顔がどう変化していくか、わかんないけどさ。ほら、男の子って、ある日突然、すごい変わる子いるもんね。でもさ、あんたと竜は、表情が似てんの。竜がテレビ観ながらジュース飲んでて、袖にひっかけてコップ倒して、ほらあ、ちゃんと前を向いてないから、なんて言った時とおんなじ顔だったんだよ」  急に目を落として、なぜか不安そうに、そうか、とつぶやくと、木崎は紙コップのひとつを手に取り、座席に背を沈めた。  コーヒーを数回、あいだを空けて飲み、しばしの沈黙の後、おもむろに口を開いた。 「俺の態度って、あれだろ、あの……、退院してきた日……」 「ああ……。自覚あるんだ」 「まあ……な……」  思えば、3月は波乱の幕開けだった。    今日から3月、期末で仕事は忙しくなるし、私生活でもいろいろと動きが激しい。あわただしいぞ、きっと、と心して業務に励んでいた午後2時過ぎ、木崎が経営するバー『フーガ』の大学生アルバイトの市川が、聖子が初めて聞く、心細そうな震える声で電話してきた。  昼休みに持ち帰って、そのまま足元に置いていたバッグのなかで携帯が振動しているのに気づいたのだが、見ると立てつづけに5回ほどの着信履歴があった。すべて市川からで、この30分くらいのあいだに集中している。
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