1.  ショッピングモールの駐車場

6/17
前へ
/146ページ
次へ
「いや、いいよ。ありがとう。がんばったね。ほんと、感謝する。申しわけないけど、もう少しだけ踏んばってもらえるかな。竜は、今も一緒にいるんだね。よかった。わたし、できるだけ早くそっちへ行くから、それまで、もうちょっとこらえて。どうかな、学校、大丈夫?」 『学校は……、いいんですけど……。あ、着替え、取りに帰ったりとか、俺、できますよ』 「いや……、それはいいよ。あんた、車ないでしょ。それよりそばにいてやって。目が覚めてひとりだったら心細いだろうから」 『それはもちろん、そうします。でも、なんか用事があったら言ってください。なんでもしますから』  今から思い返せば、聖子はこの時の市川にかすかな違和感を抱いていた。具体的にどことは指摘できないけれど、なんとなくいつもと違う感じ。  だが、頭のなかはそれどころではなかった。まずは課長に事情を説明して、明日は有給を取ったほうがいいかもしれない、竜の保育園はどうしようとせわしなく考えていたから、市川に対する懸念は優先順位が低かったのだろう。思考の隅っこに追いやられてしまっていた。きっと市川は、ボスが倒れたという緊急事態に狼狽し、また同時に少し張り切ってしまっているのだろうとも思った。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

162人が本棚に入れています
本棚に追加