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その日はそのまま早退し、病院に着いてみれば、木崎は四人部屋の3人の患者のひとりとなり、ベッドに起きあがって市川相手に話をしていた。竜は病院内に設けられたキッズスペースで遊んでいるという。点滴はもうはずされていた。
聖子の登場にあきらかにほっとした様子の市川が、竜を呼びに行ってくれた。
ここへ来るまでにモールに立ち寄って購入した下着や洗面道具を、意識して無表情にサイドボードに置いた。視野の隅で窺うと、木崎はバツの悪そうな顔で、ちらちらと何度も聖子を盗み見ている。
悪いことをしたわけではない。これはがんばりすぎた結果だと思うと、いじらしくてたまらなくなった。片手で髪をくしゃくしゃにしてやった。
されるがままになりながら、ごめん、と消え入りそうな声が聞こえた。
市川に手を引かれて、竜が病室に入ってきた。
「パパ……、病気?」
聖子の顔を見るなり、竜が小声でもそもそと訊いた。しかし木崎にもはっきり聞き取れたようだ。
「竜、俺は大丈夫だぞお。ごめんな、心配かけて。ああ、それと、今日はヨギちゃんのまずいご飯になっちまう、ごめんなあ」
竜の頭を撫でながら照れ笑いで嫌味を垂れる。
「そういうこと言えるってことは、頭の病気じゃなさそうだ」
ベッドサイドの丸椅子に座り、木崎の顔をじっくりと見た。
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