164人が本棚に入れています
本棚に追加
婚姻届を出したとはいえ、まだ同居はしていないし、生活時間の極端にズレた夫婦だから、お互いの健康状態のチェックなど、ほぼ不可能に近い。
しかも4月から『フーガ』の営業時間を変更するため、このところ木崎はランチメニューの開発に余念がない。したがって1月後半から、一日中フル稼働の状態が続いていた。
あらためてしげしげと観察してみれば、さすがに疲れの溜まった顔つきをしている。点滴のおかげで顔色は幾分よくはなっているのだろうが、目の下にはくっきりと隈ができ、頬も以前よりも痩けているように見えた。
「病人は労るもんだろう」という声も、いつもより張りがなく聞こえる。
「労るよ。労ってやるから、その前に、徹底的に検査してもらえ。どうせまともな健康診断なんぞ、長いこと受けてないんだろ」
「毎年やってますう、市のなんとか検診っての。ああ、メタボだ、メタボ検診」
「そんな血液とレントゲンなんてお手軽コースじゃなくて、フルコースでやってもらえっての。下剤も飲んで、腹んなかの黒いものも全部出してもらったら、きっと心優しいピュアな男に転生できるぞ」
「俺ほどピュアな男は、ヨギちゃんのまわりには見あたらないはずだ」
「あんたがピュアなら、わたしゃおとぎの国の住人だ。今、ナースステーションで言っといたから、もうすぐドクターがきてくれる。そしたらわたしからお願いするね、ずっこり調べてくださいって」
「怖いなあ、ヨギちゃん」と言いながら竜の頭を撫でる木崎は、それでも安心した微笑みを浮かべていた。
最初のコメントを投稿しよう!