1.  ショッピングモールの駐車場

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「ヨギさんも到着したことだし、じゃあ俺、一度店に戻ります。本日臨時休業の貼り紙、出さなきゃ。あ、まずは予約の入ってるお客さんに連絡ですね」  『フーガ』はバーと名乗ってはいるが、東京のフレンチレストランで15年間の修行を積んだ木崎の料理の評判も高い。ただしメニューはその日の食材と木崎の気まぐれで決まる。 「ああ、しっかり謝っといてくれ。たぶん明日は開けられるだろう」 「なに無責任なこと言ってんの。それは医者と要相談。市川くん、『本日』だけでいいからね。明日は通常営業、なんて書かなくていいよ。商店街の常連さんには、連絡つく人にだけ知らせといて」 「そんな大袈裟なことしなくていいって。大丈夫なんだから」 「いや、マスター、今日は俺もヨギさんに一票、ですね。じゃあな、竜」  市川が律儀にしゃがんで竜を軽くハグし、病室を出ていこうとした。市川は竜を可愛がってくれているし、竜も市川のことを歳の離れた兄のように慕っている。 「あ、市川くん」と、聖子が木崎と目を合わせて小さくうなずき、市川の腕を取って外へと向かった。  廊下で、聖子が市川に一万円札を握らせた。 「タクシーで行ってね。商店街のおやっさんやぼんぼんたちには、検査結果が出たらまた知らせますって言っといて。わたし、明日は有給取ったから、着替えやらなにやらはあとでわたしが用意する。あんたは店の戸締りしたら、面倒だけど、またこっち、戻ってきて。3人で焼肉でも食べにいこう。あ、お釣りは返さなくていいからね」
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