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今日は高校卒業から15年目の節目で、3年6組の同窓会が初めて開かれる。
会場に到着すると、あちこちから「久しぶり~!」の声が聞こえてくる。
「か~すみっ、結婚式ぶりだね」
「あ、みどり。あの時はありがとう。」
私とみどりは3年間同じクラスで、高校では仲が良かった友人の1人。
みどりは3年前の私の結婚式に、妊娠8ヶ月の大きなお腹で出席してくれていた。
「ま~君はお母さんが見ててくれてるの?」
「もう、欲しい物全部買い与えてるから、チョーワガママ坊主になってるよ…」
「アハハ。でも、お母さんの気持ち分かる。ま~君可愛いもん。」
ま~君は、私の結婚式の時にお腹に入ってた赤ちゃん。
「お~い、かずさ~」
遠くの方から聞こえてきた名前にドキッとして身体が強張った。
「へ~、かずさも来てるんだ。かすみはかずさと仲良かったけど、高校以降は会ってたりしてた?」
「え?あ、ううん高校以来だよ」
「そうだよね~、たしか結構遠い大学に行ってたよね」
今日の同窓会を本当は少し楽しみにしてた。
彼が来るかどうかも分からないのに、同窓会のハガキが届いた時から、あの頃の気持ちが溢れ出してきていた。
かずさとは高校2.3年と同じクラスで、仲のいいグループの1人だった。
毎日の様に学校帰りはカラオケや、ファミレスなんかで、集まってたっけ。
かずさが気になる存在だと気付いたのは、2年の体育祭から。
彼が出場した借り物競争で、私が借り出された。
その時に差し出された手に、すごくドキドキしたのが自分の気持ちに気付いたきっかけ。
でもあの時、借り出された質問は今も謎のままだけど。
「かずさ~、久しぶり~元気してた?」
みどりが入り口に向かって歩いているかずさに話かける。
かずさの周りには、男女とわずいつもたくさんの人がいた。
もちろん今日も例外ではなく、5.6人に囲まれている。
かずさはこちらに気付いたけど、手を少し上げただけの返事になった。
「相変わらずの人気者」
「だね」
「私達も中に行こっか」
一次会で、かずさと話す事なく時間だけが過ぎてしまった。
「二次会に出席する人は、17:00から○○○で開始するのでお店まで直接来て下さ~い」
幹事さんがマイクで呼び掛ける。
「みどりは行ける?」
「呼び出しがかかるまで大丈夫だよ。呼び出されるとしたら、寝かしつけの時間かな」
「良かったぁ、ま~君がいるから早く帰っちゃうだろうって思ってたから。」
「久しぶりの息抜きだから、出れる時に行っとかないと。その前にお手洗い行ってくるわ」
「私はここで待ってるね」
私が1人になってすぐに、背後から
「この後行く?」
高校時代はたくさんの声の中からでも、この声だけは聞き分けられるくらい大好きだった。
感情が表に出てしまわないよう気を付けながら
振り向いた。
「久しぶり。」
「久しぶり。変わってないなぁって言いたいとこだけど、お互い大人になったな。」
「そこは変わってないねって言うとこ!」
たわいのない会話で、あの頃に戻った感覚になる。
冗談も彼の気遣いなんだろう。
「もうちょい早く声かけたかったんだけど、
コタローが離してくれなくてさ」
「うん、見てたよ。かずさに会えて嬉しかったんだよ」
「野郎から好かれてもなぁ」
「そのコタロー君は?」
「トイレに行ってくれて、やっと解放されたとこ。」
「次行くだろ?一緒に行かない?」
「うん。みどりと一緒に行く予定だから、みんなで行こう」
二次会の会場まで徒歩で移動してる間、15年の年月を感じさせないくらい、みんなあの頃のままだった。
二次会の会場ではくじ引きで席を決める為、かずさ達とはまた離れてしまった。
♪♪♪~♪♪
隣のみどりのスマホが鳴る。
「ヤバい、実家からだ。」
いつの間にか、ま~君の寝かしつけの時間になっていた。
電話をかけ終えたみどりが戻ってきた。
「ごめんかすみ、やっぱり呼び出しだ。もう帰らなきゃ。」
「ううん、今まで一緒にいれて楽しかった。
今度は、ま~君も一緒にランチに行こう。」
次回会う約束をして、みどりは足早に帰って行った。
「みどりがママだなんて、あの頃は想像も出来なかったけどな。」
みどりのいた席に、かずさが座り込む。
「こっちに来てていーの?」
「もう、みんな好き勝手移動してるよ。コタローは酔いつぶれて、寝てるし。」
それから私達は、会っていない間を埋めるように色々話し合った。
飲み物を取ろうとして、彼の指先に触れてしまった。
「あっごめんっ」
触れた手を握りしめて、テーブルの下に隠した。
お酒と溢れ出て止まらない気持ちとで、心臓の動悸が、隣のかずさにも聞こえてしまっていないか心配だった。
もう高校生じゃないのに、こうやってみんなといると、気持ちまであの頃に引き戻されてしまう。
テーブルの下に隠した手をずっと見ていたら、
「どうした?気分悪い?一緒にトイレ行こうか?」
「ううん、大丈夫。でも、お手洗いは行ってくるね。」
あの場から少し離れたかったから、お手洗いに行くふりをして外へ出た。
「ふぅ~、涼しい。」
居酒屋の熱気と、さっきのドキドキとで顔が熱かったのが、少しずつ冷やされていく。
(ここにいると、既婚者って忘れちゃう)
結婚3年目で、私も正社員で働いているし、お互い自分の時間が最優先になっていて、少しすれ違いの生活を送ってしまっている。
「帰ってこないから、心配したよ。」
かずさが迎えに来てくれた。
「ごめん。ちょっと外の空気吸いたくて。」
「かすみはいつ戻るの?」
連休を利用して地元に戻ってきてた私は、あと2日こっちにいるつもりだった。
「明後日。かずさは?」
かずさも今はこっちにいない。
「俺も一緒。明日さ、二人で会えないかな?」
「あっ」
突然の誘いにビックリして、足元がふらついて身体のバランスが崩れて倒れそうになった。
私の腕を掴み、体勢を立て直してくれたのに、
そのまま彼に抱きしめられた。
「ごめん、こんなことしちゃダメだって分かってる。でも、あと少しだけ。」
彼の速い心臓の音がすぐ近くで聞こえて、私の心臓と同じ速さなんだって少し安心した。
「私も会いたい。」
待ち合わせ時間に私の最寄りの駅まで、かずさが車で迎えに来てくれた。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこ。お邪魔します。」
(あ、かずさの匂いだ)
ドアを開けた瞬間かずさの香りがして、昨日抱きしめられた時の事を思い出した。
キレイに掃除がしてある車の助手席に座り、私達は雨の街に向かって走り出した。
「雨に濡れてない?大丈夫だった?」
「私が来る時はそんなに降ってなかったから」
駅に来るまで小降りだった雨が、車に乗ってからは激しく窓に叩きつけるくらいになっていた。
雨粒でにじんだ街の明かりを見ながら、高校時代を思い出していた。
もし、高校の時にかずさに気持ちを打ち明けていたら、今とは違う生活をしているのかな。
でも、告白して振られてからも友達でいれるほど器用ではないのは分かってたから、ずっと気持ちを隠してた。
大学生になっても、2.3年はずっと引きずってたっけ。
そしてその頃には、少し器用にもなってきたから初めて告白されてお付き合いしたなぁ。
でも、心の隅の方には絶対かずさはいて。
結婚してからも、それは同じで、いつまでたっても消えてくれなかった。
私達を乗せた車は、誰もいない公園の駐車場に停まった。
静かな車内に、雨の打ち付ける音だけが響いている。
私はふと、体育祭の借り物競争を思い出していた。
「ずっと聞きたかったんだけど…」
「ん?」
「 高校の体育祭の借り物競争で、私が借り出された時の指示って何だったの?」
「え?!また懐かしい事を思い出すね」
「あの頃は絶対教えてくれなかったじゃん、ずっと気になってたから」
「…。」
彼を見ると、恥ずかしそうに唇を歪ませて噛んでいた。
このしぐさは、かずさの照れている時の表情だった。
「もういいじゃん!そんな昔の話」
話終わると、また唇を噛んでる。
「え~!!今だからいいんでしょう!教えてよォ」
「……な人」
「ん?全然聞こえないんだけど」
外の雨の音の方が大きくて、かずさの声が聞き取れない。
「大好きな人」
今度は私がビックリして固まってしまった。
かずさは、私と反対方向の窓の外をずっと見ている。
そういえば、ゴールした時もかずさは顔が赤くて唇を噛んでた。
走って暑かったのかと思ってたけど、あの仕草は照れてたんだ!
ん?
と言うことは、私達両思いだったんだ。
こんなことを考えてたら、私もすごく恥ずかしくなってきた。
「だから、紙を見てた時固まってたんだ…」
「…」
「クラスのみんなで漢字読めないんじゃない?とか言ってたっけ。フフッ」
(はっ?!)
話終わると同時に、かずさに抱きしめられていた。
抱きしめながら、かずさはボソッと話始めた。
「あの頃…友達のままいれば、おまえとずっと一緒にいれると思ってた」
(コクン…)
私は頷くことだけで精一杯。
「今まで、何回もかすみの事を忘れようとしたけど、昨日…顔を見たらやっぱり…」
駐車場に停めてから、全然こっちを向いてくれなかったのに、今はかずさの熱い瞳に見つめられている…
相変わらず外は大雨が降っている。
私の心臓の音が聴こえないくらい、何も考えてられないくらい、もっと…もっと激しく降り続いてて…
恋の嵐
竹内まりあ
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