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ゆっくりと薄暗くなりゆく空の下。
Xは道端に座り込んで深々と息をつく。目の前を行き交う人々がじろじろとこちらを見てくるのに対し、肩を縮めることしかできない。
今回の『潜航』でXが降り立ったのは、今からずっと古い時代を思わせる街角であった。踏み固められた道を行き交うのは着物のような服に身を包んだ人々で、現代的な衣服を纏ったXの姿は明らかに場違いであった。
その上、ただ古い時代だというだけでなく、言葉が通じないのだ。何となく日本語に似ているような気もするが、言葉のひとつひとつが全く異なるもので、Xは完全に途方に暮れてしまっていた。
もちろん、Xとて『異界』探索を任された身であり、何もしないまま引き返すことはせず、出来る限り歩き回ることで『異界』の規模を測ろうとした。が、途中でXの異様な姿を見とがめたらしい男たちに追われたことで、その気もすっかり失せてしまったようだった。やっと逃げ切った先で、こうしてぼんやりと無為な時間を過ごしている、わけである。
これはもう引き上げてしまった方がいいだろうか、と半ば私も諦めかけたところで、不意にスピーカーから不思議な音色が聞こえてきた。
これは……。
「笛の、音?」
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