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蛍ちゃんの手を引いてやってきたのは、ひとけのない階段。
「カンちがいだったらごめん。体育館の窓ガラスや教室の蛍光灯を割ったのって、ひょっとして蛍ちゃんなんじゃない?」
私がたずねると、蛍ちゃんはポロポロと目からなみだを流し始めた。
「分からない……けど、そうかも」
蛍ちゃんが言うには、始業式の前あたりから、お母さんに怒られたり、何かイヤなことがあると周りの物がこわれるということが何度もあったらしい。
「――蛍ちゃん!」
そこへ、コロちゃんをだっこしたユナがやってきた。
「ユナ、何でコロちゃんを」
私が文句を言おうとすると、コロちゃんはユナの腕から飛びおりた。
じっと蛍ちゃんを見つめるコロちゃん。
「ふむ、やっぱりその子が犯人かワン」
「犬がしゃべった!?」
目を見開く蛍ちゃん。私はため息をついた。
「蛍ちゃん、よく聞いて。この犬は超能力者にしか見えないの」
「えっ?」
ユナがコロちゃんにたずねる。
「コロ助、蛍ちゃんが超能力を使ったのは、まちがいないのか?」
「そうだワン。教室の前で見てたワン」
コロちゃんたら、どうやらナイショで学校にしのびこんで、そこで蛍光灯が割れるところを見たらしい。
「そんな……私が超能力者……?」
「見たところ、力が不安定なようだワンね。でもストレスを取りのぞいて、しっかりと訓練すれば、暴走するなんてことは無くなるはずだワン」
「そっか。良かった」
ほっと息をはくユナ。
確かに、蛍ちゃんがちゃんと自分の力をコントロールできるようになればそれで一件落着ね。でも……。
「でも、蛍ちゃんのストレスって?」
やっぱりクラスがえ?
私が首をかしげると、ユナはじっと蛍ちゃんの目を見つめた。
「蛍ちゃん……もしかして、総一郎のことが好きなんじゃないか?」
えっ?
うそ、蛍ちゃんが?
見る見るうちに真っ赤になっていく蛍ちゃんの顔。
「えっ、本当に総一郎のこと?」
こくん、とうなずく蛍ちゃん。
「ど、どうして!? あんなにイヤミなやつなのに!」
「イヤミだなんてそんな! 総一郎くんね、三年生の時に、内気であまり友達がいなかった私を気にかけてくれて、話しかけてくれたりしたの」
はずかしそうに蛍ちゃんが話し出す。
「あっ、私のことが好きだからとかじゃなくて、委員長だからだってことはわかってるんだけど、それですごく優しいなって」
優しい……ねぇ。
確かに、総一郎は一年の時からずっと委員長で、大人しい子やあまり友達のいない子にも話しかけて色々と面倒を見てる。
それで普段あまり男子と話さない子なんかは好きになっちゃうこともあるって聞いたことがあったけど、まさか蛍ちゃんもだったなんて!
「それで、ボクたちが総一郎と話してるのがうらやましくてストレスになったんだな」
「そうだったの」
だって私、蛍ちゃんが総一郎のこと好きだなんて、全然知らなかったから……。
「あ、そうだわ」
その時、私の頭に名案がうかんだ。
「来て、蛍ちゃん!」
私は蛍ちゃんの腕を引っ張った。
この方法なら、蛍ちゃんのストレスを解消できるかもしれない!
***
教室にもどると、すでに先生たちによって蛍光灯は片付けられていた。
「こちらはもう片付いたから安心したまえ」
総一郎がほこらしげに言う。
「そう。それより、超能力クラブに入部希望者がいるんだけど」
「入部希望者って……もしかして蛍さん?」
総一郎が私の横にいる蛍ちゃんに目をやる。蛍ちゃんははずかしそうに私の後ろにかくれた。
「うん。超能力に興味があるんだって。ダメ?」
そう、私の思いついた案は、蛍ちゃんを超能力クラブに入れること。
それならクラスはちがっても放課後は総一郎といっしょに居られるし、超能力クラブも部員を増やせて一石二鳥ってワケ!
「先ほども、王子目当てに入部しようとした女子が何人かいたんだ」
だけど総一郎は深いため息をついた。
「でも男目当てじゃダメだと断ったところだ。真面目にクラブ活動に取り組んでくれる子じゃなきゃと思ってね」
「ええっ、それじゃあ」
蛍ちゃんが弱々しい声を出す。
「でも、蛍さんなら真面目だし、恋愛目的じゃないだろうから大歓迎だよ」
笑う総一郎。
「ありがとう!」
蛍ちゃんは目をかがやかせる。
良かったわね。まあ、蛍ちゃんは王子目当てじゃなくて総一郎目当てなんだけどね。
「いっしょに超能力の研究しようね、サナちゃん!」
私の手をギュッとにぎる蛍ちゃん。
「うん……って、ええ!?」
ちょっと蛍ちゃん、何かカンチガイしてない?
「おお、サナもクラブに入る気になったか!」
総一郎の顔が明るくなる。
「ち、ちがうわよ、私は――」
「えっ? サナちゃんは入らないの? 私、男の人だけだとちょっと……」
涙目になる蛍ちゃん。
「う……分かった。とりあえず、名前だけ書いておく……」
私は観念して入部用紙に名前を書いた。
まったく、何でこうなるのよ!
満足そうにうなずく総一郎。
「さて、あと一人でクラブ成立だな」
「じゃあ、とりあえずユナに名前だけでも書いてもらうことにするわ」
私はユナに入部希望用紙を渡した。
「えっ! 何でボクが」
「別に名前だけ書いてユーレイ部員でもいいじゃない。こうなったら道連れよ」
「ひどいなあ」
そう言いつつも、ユナは素直に名前を書く。
「ほら、これでいいのか?」
総一郎に入部用紙をわたすユナ。
「ありがとう、ユナちゃん!」
王子が得意のキラキラ王子スマイルを見せると、ユナはフン、と横を向いた。
「フフフ。これでようやく、超能力クラブのスタートだ!」
勢いよく宣言する総一郎に、拍手をする王子と蛍ちゃん。
私はというと、ユナと顔を見合わせて大きなため息をついたのだった。
……は~あ。何だか変なクラブが始まっちゃったなぁ。
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