3人が本棚に入れています
本棚に追加
「さて、さっそく記事の内容について決めよう」
総一郎がノートを取り出す。
「とりあえず前野先生からは、新学期だから生徒の自己紹介の記事なんていうのはどうかって」
「それいいね。去年ちがうクラスだった人のことなんかほとんど知らないし」
ユナがうなずく。
「そうだ、王子のプロフィールでも書けばみんな喜ぶんじゃないかな、ファンも多いみたいだし。ここからここまでバーンと大きく……」
私が言うと、総一郎はしかめっ面をした。
「それでは超能力の記事が小さくなってしまう」
「別にいいじゃん」
「よくない!」
何よ。絶対に、みんな超能力より王子に興味があるに決まってるのに。
私と総一郎が口げんかをしていると、王子が困った顔を見せた。
「えーっと、とりあえず最初だから、ぼくら五人の自己紹介を大きくのせるのはどうかな」
「それだとふつうの学級新聞ではないか」
顔をしかめる総一郎。だって学級新聞クラブなんだから仕方ないでしょ。
「だったら、最後の方の空いてるスペースに超能力について書けばいいんじゃないか?」
ユナが提案するも、総一郎は不満そうな顔だ。
「じゃあ、総一郎くんの自己紹介コーナーで超能力について語ればいいんじゃないかな。部長だから、スペースを大きくとってもいいし」
蛍ちゃんが提案してくれる。
「うむむ、仕方ない。では、最初は五人の自己紹介記事を書こう。僕の自己紹介で超能力について語って、最後の編集後記でも超能力にふれてやろう」
納得した様子の総一郎。何でそこまでして超能力にこだわるの?
「じゃあそれぞれ自己紹介を考えておいてくれ。こちらは超能力に関する情報集めとレイアウトを考えておく」
「分かった」
私たちはメモ帳を手になやみ始めた。
でも、何を書くのか全然決まらない。
「ユナ、何て書いた?」
「とりあえず、名前と誕生日、血液型とサッカーのこととか」
なるほど、誕生日と血液型ね。ふむふむ。
私はユナのまねをして誕生日6月6日、血液型AB型と書いた。
あとは、趣味? なやんだ結果「趣味はおしゃれと買い物、将来の夢はファッションモデルになることです」と記入する。
「蛍ちゃん、書けた?」
「私はまだこんなに書くスペース残ってる」
困り顔をする蛍ちゃん。確かに、書くことなんてそんなに無いよねぇ。
「王子は書けた?」
声をかけると、王子はハッと顔を上げる。
「あ、うん。こんな感じ」
そこには王子の誕生日、血液型、好きな料理や好きなテレビ番組が書いてあった。
うんうん、これは王子ファンの女子にとっては永久保存版になるね!
「そう言えば、王子……くんてどこの国の人なの?」
蛍ちゃんが首をかしげる。王子は頭をかいた。
「ちょっと複雑なんだけど、お母さんはロシア人と日本人のハーフで、お父さんはドイツ人系アルゼンチン人で」
ええと??
「つまりアルゼンチン人なんだ」
「メッシの故郷だ」
ユナが有名なサッカー選手の名前を上げる。
「南米だな。じゃあスペイン語も話せるのか?」
総一郎が聞くと、王子は照れながら答えた。
「うん。日本語より得意なくらい。あと、英語と、ドイツ語と、ロシア語、フランス語も少し分かるよ」
「すごーい!!」
「ほう、ロシア語にドイツ語か。ちょうどいい。英語の論文だけだと物足りないと思っていたんだ」
感心したようにうなずく総一郎。
何? 総一郎ったら海外の論文まで読んでるの!? 小学生のくせに!
「総一郎はなんて書いたの?」
総一郎は無言で私に紙をわたしてくる。
見ると、自己紹介スペースなのに、超能力のことばっかり書いてる。
“最近、彗星が地球に接近してからというもの、この街では超能力がらみの事件が増えている。私はそれが、彗星の接近による電磁波の発生が脳に影響をおよぼしたものだと考えている。みなさんも、不思議な現象や超能力のウワサを聞いたらぜひ教えて欲しい”
……だってさ。
実はここにいるんだけどね、超能力者。それも三人も!! まぁ、総一郎にはナイショだけど。
「うっ」
私が自分の記事になやんでいると、総一郎の記事を読んでいた蛍ちゃんの目が急にウルウルしだす。
「ど、どうしたの蛍ちゃん」
こっそりとたずねると、蛍ちゃんは大きなため息をついた。
「総一郎くんって、B型なんだ。どうしよう。私、A型だから総一郎くんと相性が悪いんじゃないかな」
あらホント。総一郎ってばB型なんだ。ぐちぐち細かい性格だから、てっきりA型なのかと。
「なぁんだ、そんな事を気にしてたの。平気よ、占いなんてあてにならないわよ!」
「でも……」
「大丈夫だってば。ほら、うちのお父さんとお母さんだってA型とB型だけど仲良くしてるわよ!」
「そうなんだ。よかった」
ホッとした表情を見せる蛍ちゃん。血液型ひとつでこんなになやむなんて、なんていじらしいの。
こんなに可愛くていい子なのに、総一郎のことが好きだなんて、世の中まちがってる!
***
そして次の週には、初めての学級新聞『超学級新聞』は発行されたんだけど……。
「おーい、君たち!」
『超学級新聞』が発行された翌日、総一郎が血相を変えてクラスに入ってきた。
「どうしたの、そんなにあわてて」
「これを見てくれ」
総一郎が私たちにスマホを見せてくれる。
「何これ、メール?」
「ああ。新聞に僕のアドレスをのせておいたんだ。学級新聞のために取得したフリーアドレスだが」
「ふーん……ってこれ」
メールを見たユナが固まる。
「どうしたの? 私にも見せて」
そこには「私は超能力者を知っている」と書かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!