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目的地のあおねこ堂は、家と学校のちょうど真ん中あたりにある本屋さん。
小一や小二のころは、本や雑誌しか置いてない普通の本屋だったんだけど、ここ最近は可愛い文具やアクセサリーなんかも置くようになったんだ。
今ではクラスの女子たちのかくれた人気スポットになってるの。
えーん、えーん……。
そんなあおねこ堂に向かおうとしていた私たちなんだけど、公園の横を歩いていると、どこかから子供の泣き声が聞こえてくる。
「何?」
顔を上げると、公園のすみっこで五、六才の男の子が泣いている。
「なんで泣いてるの?」
「きみ、どうしたの?」
私たちが同時に声をかけると、男の子が顔を上げる。
「風船が、木に引っかかっちゃったんだ」
泣きじゃくりながら公園の木を見上げる男の子。
本当だ。よく見ると、木の枝に真っ赤な風船が引っかかってる。
「何だそんなことか。ボクに任せろ」
ユナがするすると木に登る。
私も小さいころはユナみたいに木に登ってたんだけど、お洋服がよごれるといけないから今回は木の下で応援。
「その調子、あとちょっと!」
「お姉ちゃん、ガンバレー!」
あっという間に木のてっぺんまでたどり着き、風船に手をのばすユナ。
「くっ、あとちょっと」
だけど、ユナが風船の引っかかってる辺りに手をのばした瞬間、枝がゆれ、風船はふわりと舞い上がる。
「あっ」
青い空にふわりと舞い上がる赤い風船。
男の子の顔に再びナミダがうかぶ。
「だ、大丈夫。あきらめないで!」
私は男の子をなぐさめた。
だって、私たちには超能力があるんだもん。これぐらい大丈夫。
キョロキョロと辺りを見回す。
だれも見てない……よね。
「ユナ!」
「ああ」
二人でうなずきあう。
「外で超能力を使うのはダメワンよ?」
カバンについてるコロちゃんがこそりと言う。
「大丈夫、だれも見ちゃいないから」
「全く、今回だけワンよ?」
コロちゃんからOKが出たので、こっそりと超能力を使うことにする。
男の子も泣きじゃくってて、ろくに前も見えないだろうし、まだ小さいから大丈夫でしょ。
ユナが手をのばす。
まゆの間に深いシワができる。だけど――。
「どうして?」
風船は、どんどん空へと登っていく。
どうしたのユナ、早く超能力を使ってよ。
コロちゃんが私の耳元でささやく。
「さっき部屋の片付けで力を使いすぎたのかもしれないワン」
「そんな」
辛そうに額に汗をうかべながら、ユナはさけんだ。
「風船っ、お願いだからもどってこいっ!」
すると思いが通じたのか、一度空へ上りかけた風船がこちらへもどって来た。
「あっ、もどって来た!」
男の子がうれしそうにジャンプする。
「やった!」
あー、良かった。
だけど風船のヒモをユナがつかまえたその時――。
ぐらり。
ユナがバランスをくずし、木の上から真っ逆さまに落っこちた。
「きゃあああああっ!」
ユナ――!
ユナが地面に落っこちちゃう!
そう思った瞬間、胸の奥がポカポカと熱くなった。
光がわき起こる。そして――。
ふわり。
「えっ」
気がつくと、ユナの体は地面スレスレでピタリと止まっていた。
「――ユナ!」
急いでかけ寄ると、ユナの体はゴロリと地面に転がった。
すぐに立ち上がり、ポンポンと土をはらうユナ。
良かった。一度空中で止まったおかげで勢いが減って、ケガはないみたい。
「はい、風船」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ユナから風船を受け取ると、男の子はうれしそうに公園の外へと走っていく。
「ばいばーい」
「気をつけてね!」
手をふって見送る。
男の子の姿が見えなくなると、私はヘナヘナとその場に座りこんだ。
つ……つかれた。
人間みたいに大きなものを超能力で浮かせたのは初めて。
「ありがとうサナ、助かったよ。地面スレスレで一度止まったおかげで、ほとんどケガせずにすんだ」
「本当に、上手く力が使えたから良かったけど、こんなの初めてだったからびっくりしちゃった」
「大丈夫だワン。これから二人とも、もっと上手に力を使えるようになっていくワン」
「だといいけど」
そんな事を話しながら公園を後にする。
こうして私たちは、無事男の子の風船を取りもどした。だけど――。
「……?」
急にユナが不思議そうな顔をして辺りをキョロキョロと見わたす。
「どうしたの?」
私はユナにたずねた。
「いや……気のせいかな」
ポリポリと頭をかくユナ。
「今、だれかに見られていたような気がしたんだけど」
ええ?
「気のせいじゃない?」
「だといいけど」
「それより早く行こっ」
そんな話をしながら公園を後にする私たち。
だけど――この時はまだ知らなかったんだ。まさかこのあとあんな事件に巻きこまれるなんて!
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