1.ふたごの超能力者

3/3
前へ
/44ページ
次へ
 目的地のあおねこ堂は、家と学校のちょうど真ん中あたりにある本屋さん。  小一や小二のころは、本や雑誌しか置いてない普通の本屋だったんだけど、ここ最近は可愛い文具やアクセサリーなんかも置くようになったんだ。  今ではクラスの女子たちのかくれた人気スポットになってるの。  えーん、えーん……。  そんなあおねこ堂に向かおうとしていた私たちなんだけど、公園の横を歩いていると、どこかから子供の泣き声が聞こえてくる。 「何?」  顔を上げると、公園のすみっこで五、六才の男の子が泣いている。 「なんで泣いてるの?」 「きみ、どうしたの?」  私たちが同時に声をかけると、男の子が顔を上げる。 「風船が、木に引っかかっちゃったんだ」  泣きじゃくりながら公園の木を見上げる男の子。  本当だ。よく見ると、木の枝に真っ赤な風船が引っかかってる。 「何だそんなことか。ボクに任せろ」  ユナがするすると木に登る。  私も小さいころはユナみたいに木に登ってたんだけど、お洋服がよごれるといけないから今回は木の下で応援。 「その調子、あとちょっと!」 「お姉ちゃん、ガンバレー!」  あっという間に木のてっぺんまでたどり着き、風船に手をのばすユナ。 「くっ、あとちょっと」  だけど、ユナが風船の引っかかってる辺りに手をのばした瞬間、枝がゆれ、風船はふわりと舞い上がる。 「あっ」  青い空にふわりと舞い上がる赤い風船。  男の子の顔に再びナミダがうかぶ。 「だ、大丈夫。あきらめないで!」  私は男の子をなぐさめた。  だって、私たちには超能力があるんだもん。これぐらい大丈夫。  キョロキョロと辺りを見回す。  だれも見てない……よね。 「ユナ!」 「ああ」  二人でうなずきあう。 「外で超能力を使うのはダメワンよ?」  カバンについてるコロちゃんがこそりと言う。 「大丈夫、だれも見ちゃいないから」 「全く、今回だけワンよ?」  コロちゃんからOKが出たので、こっそりと超能力を使うことにする。  男の子も泣きじゃくってて、ろくに前も見えないだろうし、まだ小さいから大丈夫でしょ。  ユナが手をのばす。  まゆの間に深いシワができる。だけど――。 「どうして?」  風船は、どんどん空へと登っていく。  どうしたのユナ、早く超能力を使ってよ。  コロちゃんが私の耳元でささやく。 「さっき部屋の片付けで力を使いすぎたのかもしれないワン」 「そんな」  辛そうに額に汗をうかべながら、ユナはさけんだ。 「風船っ、お願いだからもどってこいっ!」  すると思いが通じたのか、一度空へ上りかけた風船がこちらへもどって来た。 「あっ、もどって来た!」  男の子がうれしそうにジャンプする。 「やった!」    あー、良かった。  だけど風船のヒモをユナがつかまえたその時――。  ぐらり。  ユナがバランスをくずし、木の上から真っ逆さまに落っこちた。 「きゃあああああっ!」  ユナ――!  ユナが地面に落っこちちゃう!  そう思った瞬間、胸の奥がポカポカと熱くなった。  光がわき起こる。そして――。  ふわり。 「えっ」  気がつくと、ユナの体は地面スレスレでピタリと止まっていた。 「――ユナ!」  急いでかけ寄ると、ユナの体はゴロリと地面に転がった。  すぐに立ち上がり、ポンポンと土をはらうユナ。  良かった。一度空中で止まったおかげで勢いが減って、ケガはないみたい。   「はい、風船」 「ありがとう、お姉ちゃん!」  ユナから風船を受け取ると、男の子はうれしそうに公園の外へと走っていく。 「ばいばーい」 「気をつけてね!」  手をふって見送る。  男の子の姿が見えなくなると、私はヘナヘナとその場に座りこんだ。  つ……つかれた。  人間みたいに大きなものを超能力で浮かせたのは初めて。 「ありがとうサナ、助かったよ。地面スレスレで一度止まったおかげで、ほとんどケガせずにすんだ」 「本当に、上手く力が使えたから良かったけど、こんなの初めてだったからびっくりしちゃった」 「大丈夫だワン。これから二人とも、もっと上手に力を使えるようになっていくワン」 「だといいけど」  そんな事を話しながら公園を後にする。  こうして私たちは、無事男の子の風船を取りもどした。だけど――。 「……?」  急にユナが不思議そうな顔をして辺りをキョロキョロと見わたす。 「どうしたの?」  私はユナにたずねた。 「いや……気のせいかな」  ポリポリと頭をかくユナ。 「今、だれかに見られていたような気がしたんだけど」  ええ? 「気のせいじゃない?」 「だといいけど」 「それより早く行こっ」  そんな話をしながら公園を後にする私たち。  だけど――この時はまだ知らなかったんだ。まさかこのあとあんな事件に巻きこまれるなんて!  
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加