2.ハラハラドキドキ新学期

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2.ハラハラドキドキ新学期

「これもカワイイ。これも!」 「これもいいな」  「あおねこ堂」に着いた私たちは、さっそく文房具やシール、アクセサリー、レターセットをあさり始めた。 「ちょっと買いすぎかな?」  カゴいっぱいに入れたペンやノート、ヘアゴムをチラリと見る。  でもしょうがないよね。ここにはカワイイものが多すぎるんだから。  おまけに三月だというので「新入学フェア」なんてのもやってて、すごくお得だし。 「どうしよう。これを全部買うとなると、おこづかいをほとんど使っちゃうことになるし、こんなに買ったのを見られたらお母さんにおこられるかもしれないし」  でもあれも欲しいし、これも欲しい。うーん、決められない! 「少し減らしたほうがいいかなぁ」 「まあ、新学期だからそんなもんだろ」  そう、明日から新学期。そして新学年!  いよいよ私たちも五年生。新しい文房具を持って、新学期を始めるのって、絶対ステキだと思う。  ユウウツな授業もお気に入り文房具一つあれば気分が良くなるってわけ。  まぁ、ノートをカラフルにしすぎちゃって、結局どこが大事な部分なのか分からなくなることも多いんだけどね。 「ところでユナは何買うの?」 「ボクはシャーペンと定規」  ユナがだっさいシャーペンを見せてくる。  えー、もっと可愛いのがあるじゃない、この星とかハートがついたやつとかさぁ。  でも、そういうのはユナの好みじゃないんだって。 「相変わらず地味なんだから」 「シンプルと言ってくれ」  私は絶対、花とか星とか動物とかついてる方が可愛いと思うんだけど、どうしてイヤなんだろう。  そんな風に私たちが文房具やシールを見ていると、背後にヌッとだれかが現れた。 「やあ、サナとユナじゃないか」  ゲッ。  立っていたのは、メガネをかけた背の高い男子。 「おー、総一郎(そういちろう)。久しぶりだな」  ユナがニコニコと返事をする。  だけど私は思わずしかめっ面をしてしまった。だってコイツ、苦手なんだもん。 「お前たちも買い物か?」 「あんたには関係ない」  私がそっぽを向くと、総一郎は私の持っているカゴをしげしげと見た。 「また学業に関係ないものを買ってムダ使いしたんじゃなかろうな。シールだのアクセサリーだの、あまり学業に関係ないものを学校に持っていくと先生に怒られるぞ」 「よけいなお世話っ」  どうしてこいつ、こんなにおせっかいなんだろう。  私は総一郎との出会いを思い出した。  あれは忘れもしない、小一の春。  同じ幼稚園や保育園出身の子たちがすでに仲良しグループを作ってて、別の町から引っこしてきた私は、他の子みたいに友だちがいなくてぽつんと一人ぼっちだった。  その時に話しかけてくれたのが総一郎なんだけど……。 「なんだ君は、ひどい顔だな」  クラス一、いえ学校一の美少女の私に向かって「ひどい顔」だなんて信じられない。  思わずこの失礼なメガネを思い切りにらみつけてやる。 「あんたこそ何? いきなり失礼な」  そうしたら、総一郎は鼻で笑ってこう言い放った。 「僕は志之原(しのはら)総一郎(そういちろう)。ま、この学校始まって以来の天才だな。君は頭が悪そうだから、分からないことがあったら僕に聞きたまえ」  フン、自分で自分のこと「天才」だなんて、ナルシストもたいがいにしろって感じ。  ああ、思い出すだけでムカムカしてきた。 「総一郎は何を買ったんだ?」  ユナは総一郎が手にしている買い物カゴを指さす。もう、こんなヤツになんか話しかけなくても良いのに。  ユナはなぜか総一郎になついてる。  総一郎も総一郎で、私にはイジワルなくせにユナには優しい。もしかしてユナのことが好きなのかな。  まぁユナはサッカーに夢中で男の子とか恋愛とかそういうのには興味は無いし、総一郎みたいな根暗なガリ勉なんてフラれるに決まってるんだけどね。 「僕はこれだ」  総一郎がカゴの中身を見せてくれる。 「何これ、高校のドリル?」  思わず口をあんぐりと開けてしまう。  だって、カゴの中に入っていたのは『高校物理』だの『高校数学Ⅲ』だのそういう参考書。  あのぅ、私たち今度五年生に上がるんですが。日本の小学校には飛び級なんてないんですが。 「小学生のドリルは簡単すぎてつまらないから、高校の参考書を買ってみたんだ。ちらっと見た限りではこれでもまだ簡単そうだが、頭の体操にはなるだろう」 「そ、そう」  しれっとした顔で言う総一郎。あいかわらず、イヤミな男。  私なんて、小学生の算数で苦しんでるのに、どういう頭をしてるんだろう。 「ドリルの他にも何か買ってるのか?」  こんなヤツ、放っておけばいいのに、ユナは総一郎のカゴをさらにのぞきこむ。 「ああ、これか」  総一郎が底の方から分厚い本を取り出す。   「こ、これは」 『超能力の秘密』『目覚める! 超能力』『超能力と超古代文明』  超能力の本ばっかり! 「そ、総一郎、超能力に興味があるんだな」  ユナがたずねると、総一郎はフン、と鼻を鳴らした。 「ああ、勉強の息ぬきにな。人の脳には、未知の領域がまだまだたくさん有るらしい。興味深いよ」 「そ、そう」  私たちがとまどっていると、総一郎はなおも話を続ける。 「ウワサによると、ここ最近、超能力に目覚める子供が増えてるらしいんだ。ぼくはそれは最近地球に接近したすい星の影響じゃないかと思っててね」  ドキリ、と心臓が鳴る。 「へ、へえ。すい星と超能力にそんな関係があるなんて知らなかったー」  背中にあせをかきながら答える。 「これは僕の仮説だけど、すい接近による磁場のみだれが人間の脳に何らかの影響を及ぼしたんじゃないかと思っているんだ。まあ、頭の足りないサナには難しすぎる話かもしれないが」 「そ、そうだね」  どうでもいいから、早くどこかへ行って!  そう思っていると、私の気持ちが通じたかのように総一郎は時計を見た。 「おっと、もうこんな時間か。じゃあ君たちも、勉強がんばれよ」  総一郎は去っていく。私は大きなため息をついた。 「超能力のことは、総一郎には絶対ナイショね」 「だな」  ユナも同意する。  万が一、二人の超能力やコロちゃんのことが総一郎にバレたら、実験台にされるに決まってる。  そんなの絶対にイヤ!
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