さようなら、レミ

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 ある日、僕は見城さんに飲みに誘われた。 「ユウマ君、レコード会社から人が来るんだけど、ちょっと面白い店知らないかな?」 「面白い店、ですか?」 「今回来る人がちょっと偉いさんでさ、音楽の話をまったりする感じじゃ無いんだよね」  見城さんが困っているのを見て、僕はふと、音楽バーの下の階にニューハーフバーがある事を思い出した。 「あのバーの下の階に、ニューハーフバーありますけど、行ってみますか?」 「ユウマは行ったことがあるのかい?」 「職場の人が行って、ショーがあって面白かったと言ってました」  僕のマスク姿を心配してくれた先輩が、最近友達と行ったという話を聞いていた。 「なるほどね、ショーがあるなら間が持つな」  かくして、僕も一緒にレコード会社のお偉いさんとの飲みに付き合うこととなった。  地元の料理を堪能してもらった後に、ニューハーフバーに向かう。  それでも解散にならなければ上の階の音楽バーに行けばいい。僕はニューハーフバーの深紅のドアを開けた。 「あーらいらっしゃーい!」  女物の香水が何種類も混じったような香りが立ちこめる店に入る。 「え、うっそー! 見城爽⁈」 「やだ、本気でいいショー見せないと恥ずかしいわよアンタ達!」  ニューハーフのお姉さん達も見城さんを見て興奮していた。  お姉さん達とワイワイ言いながら席に着き、水割りを作ってくれた黒髪ボブの人が話しかけてきてくれた。綺麗な顔立ちをしている。きっと普段もイケメンなんだろうな。 「で、アナタは? あ、アタシはサリーよ」 「あ、僕は、コーラスです。アルバム作りに参加させて頂いてます」 「あれ? でもアンタどっかで見たことあるよ……?」  長い金髪のウイッグを被ったマーガレットというお姉さんが僕の顔をじっと見た。 「あ、たまにですけど、この上のバーに飲みに来たり、歌ったりしてます」 「えー! アンタ地元の人なの⁈」 黒髪を揺らしてサリーさんが驚き、 「やーっぱり! どおりで見たことあると思った!」 とマーガレットさんが人差し指を振りながら笑顔で答えた。  ショーが始まるまでの間、何故かサリーさんが僕に根掘り葉掘り話を訊いてきた。 「……で、どうなのよ、彼女とかいるわけ?」 「あー……長く付き合った人がいたけど、振られちゃって」 「何て言って振られたのよ」 「それ聞きます?……色々あって。まあ性の不一致ってやつです」 「え? やっだ、ユウマったら変態趣味なの⁈ 何が性癖なのよ!」  サリーさんは僕を叩いて笑った。 「僕は、ノーマルですよ。ただ……彼女が潔癖で」  まさか彼女がレイプ被害者でトラウマが消えないだなんて言えるわけがない。僕は言葉を選んで、少し不服そうに答えた。 「……あら、ごめんなさい? 気を悪くしないでね……彼女のこと、好きだったの?」 「プロポーズしたくらいなので、好きでしたよ。本気でした」 「そう……それは、残念だったわね……」 「あの、僕からも質問していいですか?」 「いいわよ?」 「サリーさんは男と女どっちが好きなんですか?」  不躾な質問にもサリーさんは笑顔で返事をしてくれた。 「アタシは、男が好き。女の子はやっぱり同性に感じるのよね。だから女の子は抱けないの」 「そうですよね、お綺麗ですし」  無理矢理訊いちゃったから、このおつまみは私のおごりよ、とサリーさんはチーズの盛り合わせを指して、伝票に何か書き入れていた。  そんなこんながありながらも、見城さんのアルバムは完成し、僕は音楽と仕事に没頭して、レミと別れて一年が経とうとしていた。
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