プロポーズするくらいには長い付き合い

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 “イベントとは別で、今週末辺り歌ってくれないか。ちょうど鍵盤弾く奴がライブ終わってから来るっていうんだよ”  バーのマスターからもらっていたメッセージを読み返す。とてもレミとのことで心が落ち着かない、と思ったから断ろうと思ったものの、逆に吹っ切れていいかもしれないな、と思い直した。 “わかりました。何の曲にしましょうか?”  それから僕はマスターと歌う日時と歌う曲を決め、二曲ほど歌うことになった。  翌日、またマスターから連絡が来た。 “どうせするならって、アレンジ決めてきたぞ。オケ送るからこれで宜しく” “どなたなんですか、そんなことまでしてもらうなんて” “見城爽だよ” “マジですか⁈”  僕は返信しながら心臓が高鳴った。僕だって知っているシンガーソングライター。ドラマの主題歌で彼の曲を誰もが知っている。  初めましてで合わせるときは原曲通りのシンプルなコード進行で弾かれることが多く、僕はそれに合わせて歌う。なのでここまできちんと準備をしてくる人は初めてだった。今までは地元のミュージシャンばかりだったけれど、そうだ見城さんはプロだ。  だから最初はマスターも誰か言わなかったのか。見城爽が来るなんて噂が漏れたら大変だ。  仕事から帰ってマスターから送信されてきたオケを聞いた。 「あー、これは練習しなきゃマズいな」  プロが作ってきたオケに僕が全く発声練習もしていない状態でポン、と歌えるわけが無い。彼は鍵盤を弾くだけでは無く歌も歌う人なのだから、一発でバレてしまう。いつもの調子でいこうと思っていた自分を恥じた。  よし、どうせ、今週は気分が晴れないんだ。仕事終わりにカラオケに行ってとにかく発声をしっかりやろう。スタジオ空いてたら一番いいんだけどな。  僕はそれから部屋で、オケを聴きながら合わせて歌った。どういう解釈でアレンジしてあるのか、それをどう捉えて歌うのか、それを考えるのが楽しかった。
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