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大好きだった元カノの結婚
「新郎新婦のご入場です!!」
明るく良く通る司会の女性の声が、披露宴会場に響き渡る。
ドアが開くと、そこには、笑顔でドレスを纏った美しい君が見知らぬ男の腕を組んで立っていた。
コイツか、君を癒やし救った男は。遠目からでも整った顔立ちの男だとわかる。
どうして、君は僕に結婚式の招待状なんて渡して、どうして、僕は君のことが大好きなのに君の結婚式なんかに出てるんだろう。
いや、ただの会社の同期としてだ、他の仲の良い同期を招待しているのに、僕だけ呼ばないなんて不自然だ。おかげで、上座で君の顔がよく見えるよ。僕は下がってきた眼鏡のブリッジを中指でそっと上げた。
僕らは付き合っていた。五年近くも。
彼女は僕のものだった。そして僕も彼女のもののはずだった。
きっかけは大したことじゃなかった。
同期の彼女と僕は、配属された課も同じで、三年目の冬に、僕らは任された仕事でやらかした。
「ユウマくん、いいよ、もう後は私が残ってやるから」
「何で? 一人でやるより二人で手分けしよう」
単純作業だったけれど、千通もの封筒を一人でどうにか出来るわけがない。DMだが宛名が入っているものを送付するのに中身と封筒の宛先が違うという初歩的すぎて呆れるようなミスを僕たちはやってしまっていた。
後から聞けば、どうやらランダムに入れて発送していい、という指示をレミは女性の先輩から受けたようだった。一緒に確認すれば良かったけれど、まさかこんなことを間違って指示されるとは僕らも思っていなかったのだ。
「二人でやろうよ、どうせ残業だしさ、俺ご飯買ってくる、何でもいい?」
「うん、ごめんねユウマくん」
僕は二ブロック向こうのコンビニに走って、おにぎりをいくつかとカップの味噌汁二つと暖かいコーヒーを三つ買った。多分レミは昼食もろくに食べていない。
「食べてからやろうよ、守衛さんにも遅くなります、って言ってきた。コーヒー差し入れしたから快くOKくれたよ」
僕がニッと笑うと、泣きそうな顔で作業していたレミが少しだけ笑った。サラサラの髪を一つ結びにしている耳の上の部分がほつれて来ているのも気にせずに、懸命に封筒をハサミで開封している。
この時、僕はレミを好きになったのだと思う。
こんな量の作業を一人でやるなんて、やるって言うなんて人が善すぎるよ。
「美味しい……」
インスタントのカップ味噌汁を飲んで、レミは一言言った。
「レミちゃん、今日何にも食べてないんじゃない?」
「うん、食べる気になれなくて。でも今はお腹空いたから食べるよ!」
そう言って鮭のおにぎりを彼女は頬張った。
「食べたらまた頑張らなきゃ!」
「おう、一緒に手分けしてやろう!」
空き容器を片付けると、空いている長机をくっつけて、僕らは作業に没頭した。
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