第1章 真夏の光

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 パキン。  軽く澄んだ音を立てて、占い師の見つめる水晶玉に亀裂が入る。  占い師は、焦りを帯びた表情で、窓辺に立つ青年を見上げた。 「り、リオン王子。水晶が、アーシアンの来訪を告げております!」  リオン王子、と呼ばれた青年は、しかし、占い師とは対照的に、一切焦る様子はない。  開け放った窓から外を眺めて、青年は、落ち着き払った様子で言った。 「何を今さら。この世界は、もうとっくに大変なことになっているだろう?」  何せ――  そう言いかけて、青年は一度言葉を区切る。  彼の視線の先には、急激に曇り始めた空と、この国の領地にある『惑いの森』。  そして、そこへ今まさに足を踏み入れんとする、巨大な怪物の姿があった。  その姿を眺め、王子は、うなるような低い声でつぶやく。 「――エクリプスがいるんだから」
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