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かなり痛かったのか、怪物は、怒りくるったように悲鳴を上げている。
た、助かった……?
目を白黒させる俺の、そして怪物の頭上から、バサバサと大きな音が響く。
それは、例えるなら――鳥が、翼を大きくはためかせる時のような音。
「何だ……?」
音のする方向を見た俺の目に飛び込んできたもの。
それは――
「ロボット……?」
――機械的な見た目をした、大きな、黒い鳥だった。
全身が金属でできているようで、その見た目は、よく見るとフクロウに似ている。
真っ黒な翼の中には、ところどころ、深い紫に彩られた羽が混じっていた。
……いや、それにしたって、でかくないか?
5、6メートルはありそうだぞ、あれ。
俺がまじまじと観察している間に、機械のフクロウは勇ましく鳴き声を上げると、怪物に向かって急降下していく。
よく見ると、その背中には、誰かが立っているのが分かった。
仮面を着けているから、顔はよく分からない。
でも、少し長めの髪をお下げにしている……髪型とか、体格を見る限りは、多分、女の子。
その子は、怪物に向かって伸ばしていた手を下ろすと、逆の手に持った武器――身長とほとんど同じ大きさの大鎌を両手で構える。
そして、急降下していくフクロウが怪物の肩に迫ったあたりで、構えた鎌を思い切り振り下ろした!
怪物の肩が大きく切りさかれ、血がふき出す。
今のが相当痛かったのか、怪物は怒り狂ったように叫び声を上げて、棍棒を振り回した。
「危ねえ!」
俺が思わずそう叫ぶと、鳥の背中に乗った女の子が、ちらっとこっちを見た気がした。
「問題ない」
ほんの少しの唇の動きから、けれど確かに、あの子がそう言ったのが分かる。
実際、機械の鳥はそれらの攻撃をやすやすとかわして飛び回り、女の子は、鳥が怪物に近づくたびに、大鎌でその体を切りさいていった。
「すっげえ……」
大空を飛び回りながら怪物と戦うその姿に、思わずほれぼれとしてつぶやいた。
このままいけば、そのうちあいつを倒せるんじゃないか!?
そんなふうに、呑気に考えていたのがいけなかったんだろう。
――グォオオオオッ!
傷だらけになった怪物が、ギロリと俺をにらみつける。
そして、くるりと体の向きを変えると、棍棒を地面すれすれに、横なぎに振り払った。
「ゲッ……!」
まずい、よけられねえ!
今度こそ諦めかけた、次の瞬間。
「……!」
女の子が、あせったような表情を浮かべると、急いで機械の鳥に何かを言う。
フクロウは、急旋回すると、そのまま怪物の棍棒の軌道に突っ込んでくる。
そして――
「っが、は!」
ゴガン! と、硬くて鈍い音が響いた。
女の子が、機械の鳥ごと棍棒に思い切り殴られ、そのまま地面に叩きつけられる。
フクロウたちが横から猛烈な勢いで突っ込んできたからか、棍棒の軌道はそれて、俺に当たることはなかった。
そのかわり、地面にたたきつけられたフクロウと女の子は、無事じゃすまなかったみたいだ。
フクロウのほうは翼が変な方向に曲がっていて、もう一度羽ばたこうにも上手くいっていない。
女の子にいたっては、大鎌を手放したまま、ぴくりとも動かなかった。
「――っおい!」
あわててかけよって、地面に倒れ伏した女の子を抱き起こす。
改めて間近で見るその子は、なぜだろうか、どこか懐かしい気配がした。
――なんて、感傷に浸っている場合じゃない!
「おい、しっかりしろよ、おい!」
ぐったりとしている体をゆさぶると、女の子は、仮面の下でゆっくりと目を開いた。
お日様にあてた洗濯物のようないいにおいが、ふわりと香る。
このにおい、どこかで……?
思わず首をかしげる俺の腕の中で、ゆっくりとまばたきをしたあと、女の子は、かすれた声で言った。
「……逃げ、て」
その言葉に、思わずハッとした。
あの子たちは、ただ怪物と戦っていたんじゃない。
俺から怪物の気がそれるように、ずっと注意を引きつけてくれていたんだ。
見ず知らずの俺なんかのために、危険を承知で、守ってくれたんだ。
なのに俺、全然気付かないで、この子たちのこと、こんな目にあわせて……
「……ッ」
自分のふがいなさがあまりに情けなくて、何もできない自分が悔しくて。
強く唇を噛む俺たちの頭上に、影が落ちる。
見上げれば、傷だらけになった怪物が、一つだけの目を細めて、ゆかいそうに俺たちを見下ろしている。
これから、全員むごたらしく踏みつぶしてやろう――そう思っているのが丸分かりだ。
女の子を守るようにぎゅっと抱きしめて、怪物をにらみつける。
ちくしょう。ちくしょう。
俺にも、何かできればいいのに。
この子たちみたいに、戦うことができればいいのに。
――この子たちを守れる力が、あればいいのに!
ゆっくりと片足を上げる怪物を前に、強く願う。
……なあ、神様。
俺、この子たちを守りたいんだ。
だから……!
「(俺にも……この子たちみたいに戦える力をくれよ!)」
心の中で声高く吼えた、その時。
『その願い、聞き届けたぜ!』
どこからか、力強く叫ぶ声がして――空が、晴れた。
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