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(一)
僕たちは森に入り、逃げていた。国境を越えてアディレバイジェン共和国を目指していた。
敵に見つかる恐れがあったから、僕たちは森の中で広がって歩いていた。集団で歩けばすぐ見つかるけど一人ずつなら見つかる可能性もさらに低くなるはずだ。
山の斜面は歩きづらく、町からはずいぶん歩いてきたはずだったのだが、苦労の割にはあまり遠くまではきていないだろう。
とはいえ新月の夜だったので、森の中は暗かった。だから敵からは見つからないはずだ。大丈夫、絶対逃げられる。僕たちはそう思っていた。
しかし、森に入って一時間ほど歩いた頃、僕たちは気づくことになった。その考えが甘かったことに。
というのも、僕たちはイルマ・ショータの死体を見つけたからだ。ついさっきまで、一緒に歩いていた仲間だった。
(続く)
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