朧月

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だが、ちがった。 一度でも(おのれ)の手で他者の命を(にぎ)りつぶした者は、その罪から目を(そむ)けることはできない。いや……してはならなかった。それが最低限、命を(うば)った者が、死者に()せる(つぐな)いだから。 (だから……私が人殺しでなくなる日など、永遠にやってこない) 夜な夜な夢に見る、手にかけた者たちの断末魔を――細部(さいぶ)までリアルな血まみれの顔を。 まだ生きたかったと叫ぶ、怨嗟(えんさ)の声を。 ただ受け止め、()()(たま)の闇の中で息を潜めて、生き続けなければならない。 たとえそれが、どんな苦痛を(ともな)おうとも。 「なあ。そんな顔をするなよ、アイシェ。今は無理でも、俺がそのうち(かなら)ず、おまえにかけられた(くさり)を断ち切ってやるから……」
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