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いつからだろう。人を撃ち抜くのに、なんの感慨も湧かなくなったのは。
だが、それも今夜で終わる。
この狙撃で、最後になるはずだった。
私はビルの屋上に立ち、おもむろにスナイパーライフルを構えた。北西の向かい風は、風速五メートルといったところか。深く息を吐き、右肩に固定した銃身からスコープをのぞく。
――いいか、アイシェ。組織が提示する標的を五十人撃ち抜くことができれば、おまえと妹に自由をやろう。
吠えるように笑う、居丈高な男の声が耳奥で反響する。
そうだ、あの血も涙もない悪鬼に従って、これまで幾多の人を始末してきたのだ。
私はこれまで、情け容赦のない暗殺者だった。だが、それもこの一発で終わる。
もう誰にも、この国を脱出する邪魔はさせない。妹と甥の命は私が守らなければ。
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