プロローグ

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プロローグ

「あ。」 だいぶ先を歩いている、私と同じ制服を着た女子生徒が、ポケットから何か取り出した拍子に別の何かを落としたのが目に留まった。 私は小走りで落とし物のもとに走る。 「ハンカチだ。」 きれいな水色のハンカチ。白いレースで縁取られていた。 視線を先に投げると、女子生徒はまだ追いつける距離にいるのがわかる。私はスピードを上げて走った。 「待って! これ、落としたんじゃない?」 振り返った女の子は、私の顔を見て大きく目を見開き、そして、花が咲くように笑った。   きれい。 私は思わす見とれた。 小柄で色白で線の細い、守ってあげたくなるような女の子。 でも次の瞬間、女の子ははっとしたように笑顔を引っ込めた。 そして無表情のまま小さな声で呟いた。 「ありがとう。」 女の子はハンカチを私の手から取ると、そのままくるりと体の向きを変え、そして歩き出した。 私は何とも言えない気持ちになって、しばらくその場に佇んだまま、女の子の後ろ姿を見送った。 5月の風が私の頬を撫でるように吹き抜けていった。
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