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8.知ってほしい
「いつもの笑顔どこに忘れてきた? ねえ、今日本当にやる気ある?」
カメラマンさんが、ため息をつきながらついにカメラを下ろした。同じ注意だけで今日何度目かわからない。
「ごめんなさい……」
わたしは力なくうなだれた。
「ほんとなにやってんだよ。あんなデカい口たたいといて、あいつの言う通りになってもいいのかよ」
「よくないよ! よくないけど……いつもどうやってたのか、全然わからないんだもん」
わたしは泣きそうになるのを必死にこらえた。
役になりきって忘れようとしても、いろいろなことがありすぎてどうしても集中できない。こんなことはじめてだよ。
「仕方ないわね。もう交代しなさい」
お母さんが大きなため息をついて言った。
「ちょっと待ってよ! だって、このままじゃ……」
「このまま続けたって同じこと。それにみんなを待たせているの。この場にいるのは、あなたたちだけじゃないんだから」
「…………」
わたしはなにも言い返すことができず、黙ってくちびるをかんだ。
「少し頭冷やしてきます」
そう言って桜井くんがわたしの腕を引いたけど、わたしは必死に抵抗した。
「なに意地張ってんだよ」
「だって、雪乃さんに認めてもらえなかったらわたし……。ううん、それよりも桜井くんのことを、どうしても雪乃さんに認めてほしいんだもん!」
「ったく、なに訳のわかんねえこと言ってんだよ。ほら、さっさと行くぞ!」
駄々をこねるわたしの腕を、桜井くんがさっきよりも強い力で引く。わたしは桜井くんに引きずられるようにしてスタジオの外に出た。
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