1.わたしのヒミツ

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「ねねっ、今月のヘアアレ特集見た?」 「見た見た! わたしもマネしてやってみようとしたんだけどさ、なーんか違うんだよねぇ」  一番前の席で、昨日発売されたばかりのファッション誌『Honey Bee』を広げてクラスメイトの中原早苗と野村千佳が楽しそうにしゃべっているのが、一番うしろのわたしの席まで聞こえてきて、思わず聞き耳を立てる。 「やっぱ『のんちゃん』だから似合うんだってー」  そう言ってケラケラ笑う早苗に、千佳がむくれて見せる。 「ひっどーい。わたしだって絶対似合うようになってやるんだから」  早苗の言った『のんちゃん』という名前を聞いた瞬間、わたしの心臓はドクンッと大きく飛び跳ねた。  オシャレ命なこのふたりは、ちょっと(いや、かなり)派手目なタイプで、本当は学校内では禁止されているメイクをコッソリしてきていたり、カバンから文房具にいたるまで「モデルの○○が愛用!」みたいなものでそろえていたりと、オシャレへのアンテナの張り方がハンパない。  そんなふたりとは正反対なわたしは、肩より少し長めの髪を校則通りうしろでひとつに束ね、落ち着いた赤色のフレームの眼鏡をかけた、クラス内でも群を抜いて地味で大人しい存在。ふたりにとってわたしは、いることにすら気づかないような空気みたいな存在に違いない。  だけどね。 『Honey Bee の専属モデル、瀬川のぞみ』――これは、この学校のみんなにはヒミツの、もうひとりのわたし。  さっき早苗が雑誌を見ながら言っていた『のんちゃん』っていうのは、実はわたしのことなんだ。  この学校の中で、真由だけがわたしのこのヒミツを知っている。  真由にこのヒミツをカミングアウトしたとき、「モデルなんてすごいじゃん! みんなに自慢しちゃえばいーのに」なんて言われたけれど、わたしにはそれをどうしてもヒミツにしておきたい理由があるんだ。
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