13人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「なんだよ、おまえ。あいつとの賭けに勝つ気満々かよ!」
「そんなわけないじゃん!」
わたしは真っ赤な顔で否定した。
「だけどわたし……桜井くんのことは信じてるから」
自分のことは信じられないけど。
桜井くんが「できる」って言ってくれたら、わたしはきっとできる。
「わたしだって辞めたくないよ。だって、桜井くんとのお仕事がやっと楽しくなってきたんだから」
わたしは、桜井くんの目をじっと見つめて静かに言った。
「とにかく、今日はいっしょにお仕事できるんだから。がんばろっ!」
無理やり明るくそう言うと、桜井くんに笑って見せた。
「なんかおまえが前向きだと、おれの方が調子狂うわー」
大きなため息をつくと、桜井くんも笑った。
「じゃあ、もうやるっきゃねえよな。おまえのこと、あいつに絶対認めさせてやる」
するとそのとき。それまで黙っていたお母さんが、鬼の形相でわたしたちの方に向かって大股で歩いてきた。
わたしが勝手にあんな約束しちゃったから怒ってるんだ!
「あ~ぁ~き~ぃ~」
お母さんが、地を這うような声でわたしの名前を呼ぶ。
「勝手なこと言ってごめんなさい……!」
わたしは思わず桜井くんの背中に隠れた。
そんなわたしの腕をぐいっと引くと、お母さんがわたしを抱きすくめた。
「……守ってあげられなくてごめんね」
お母さんが、わたしの耳元でそうつぶやいた。
「おかあ、さん……?」
しばらくの間そうしたあと、お母さんは鼻をすするとそっと体を離した。
「さあ。今までで一番の仕事にするわよ」
お母さんが、わたしたちのことを交互に見ながら言った。
「「はい!」」
元気に返事をしたあと、わたしは桜井くんと顔を見合わせて笑い合った。
「ねえ、きみたち。いい感じのところ悪いんだけどさ。これ、心当たりない?」
由依さんが今までに見たことのないような険しい顔つきでわたしたちの方へ駆け寄ってくると、手に持っていたスマホの画面をわたしたちの方へと向けた。
最初のコメントを投稿しよう!