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「なあんだ、そういうことか」
「なんだよ」
そんな由依さんに憮然として言い返す桜井くん。
「べっつにぃ。お姉さんとしては、ちょっと安心したの」
「なにがだよっ」
「っていうか、いいかげん悠斗と連絡先の交換くらいしなさいよね。いっつもふたりしてわたしを間に挟むんだから」
「おれに言わずに悠斗に言えよ。それに、緊急のときはスマホで連絡取るより直接行った方が早いんだよ、となりなんだから」
「とにかく。これからはもっと行動に気をつけなさいよ、ふたりとも。いいお付き合いを続けたかったらね」
由依さんがわたしたちに向かってウインクした。
「つ……って、なに言ってんだよ! そんなんじゃねえっつーの」
顔を真っ赤にして桜井くんが怒っている。
「そうですよ! 桜井くんがわたしのことなんか好きになったりするわけ……ないじゃないですか」
そう言うわたしの声はだんだんと小さくなっていき、視線は床の上をさまよった。
「でもさ。最近のこうちゃん、随分雰囲気変わってきたと思うんだよね。4月にはじめてここに来たときと比べて、空気が丸くなったっていうか。それってさ、絶対のんちゃんのおかげだと思うんだ」
突然出てきたわたしの名前に顔をあげると、由依さんと目が合った。
「前にこうちゃんが仕事のことですごく落ち込んでたとき、わたしの力じゃどうしてあげることもできなかったから、姉として不甲斐ないなーってずっと思ってたんだよね」
由依さんが少し寂しそうにわたしに向かって笑った。
「だからさ。こうちゃんはのんちゃんの手を絶対に離しちゃダメなんだからね。わかった?」
由依さんが桜井くんに言い聞かせるように言う。桜井くんは、そんな由依さんから不機嫌そうに目をそらした。
好きな人に誤解されるのって……きっと一番ツラいよね。口ではなんとも思ってないって言っていたけど、桜井くんはきっとまだ……。
考えただけで胸が締めつけられるように苦しいよ。
わたしは胸元をぎゅっと握りしめてうつむいた。
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