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「ねえ、どこまで行くの」
桜井くんは黙ったままわたしの腕を引いて建物の裏手へと出た。
駐車場の脇の植え込みの前にあるベンチにわたしを座らせると、桜井くんもわたしのとなりに腰かけた。
太陽はすでに西に傾き、空にたなびく細い雲まで鮮やかなオレンジ色に染め上げている。
「外、あっちぃな」
桜井くんが洋服の前のところをつかんでパタパタとあおいでいる。
「……もう6月だもん。ねえ、汗でメイクが崩れちゃうから早く戻ろ」
「今日はもうおしまいでいーじゃん」
桜井くんがゆったりとした口調でそう言うと、両手をベンチについて空を見上げた。
「なに勝手なこと言ってるの!? そんなわけにいかないでしょ」
「今日はいろいろありすぎたんだよ。おまえ、もう疲れ切ってるだろ」
「……大丈夫だもん」
口をとがらせてわたしが言うと、桜井くんがふっと笑った。
「もうその言い方が大丈夫じゃないって。……ごめんな。おまえにまで苦しい思いさせて。全部おれのせいだ」
桜井くんが苦し気に顔をゆがませる。
「おれの母さん突然殴り込みに来るし、おれの不注意でふたりの写真撮られるし。……っていうかおまえ、メガネ外しただけでめっちゃ普通にバレてるし」
ふふっと笑うと桜井くんはわたしの方に顔を向け、わたしの目をじっと見つめた。
「それってさ、普通におまえ、かわいいってことだろ。もっと自分に自信持てよ」
「そんなの……ムリだよ。いつでも輝いている桜井くんにはわからないよ」
わたしは桜井くんから無理やり顔をそむけると、地面を見つめて言った。
「おれには、おまえの方が輝いて見えるけどな」
「そんなわけない!」
叫びながら桜井くんの方を見ると、桜井くんがわたしのことをまぶしそうに見つめていた。
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