8.知ってほしい

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「ねえ、どこまで行くの」  桜井くんは黙ったままわたしの腕を引いて建物の裏手へと出た。  駐車場の脇の植え込みの前にあるベンチにわたしを座らせると、桜井くんもわたしのとなりに腰かけた。  太陽はすでに西に傾き、空にたなびく細い雲まで鮮やかなオレンジ色に染め上げている。 「外、あっちぃな」  桜井くんが洋服の前のところをつかんでパタパタとあおいでいる。 「……もう6月だもん。ねえ、汗でメイクが崩れちゃうから早く戻ろ」 「今日はもうおしまいでいーじゃん」  桜井くんがゆったりとした口調でそう言うと、両手をベンチについて空を見上げた。 「なに勝手なこと言ってるの!? そんなわけにいかないでしょ」 「今日はいろいろありすぎたんだよ。おまえ、もう疲れ切ってるだろ」 「……大丈夫だもん」  口をとがらせてわたしが言うと、桜井くんがふっと笑った。 「もうその言い方が大丈夫じゃないって。……ごめんな。おまえにまで苦しい思いさせて。全部おれのせいだ」  桜井くんが苦し気に顔をゆがませる。 「おれの母さん突然殴り込みに来るし、おれの不注意でふたりの写真撮られるし。……っていうかおまえ、メガネ外しただけでめっちゃ普通にバレてるし」  ふふっと笑うと桜井くんはわたしの方に顔を向け、わたしの目をじっと見つめた。 「それってさ、普通におまえ、かわいいってことだろ。もっと自分に自信持てよ」 「そんなの……ムリだよ。いつでも輝いている桜井くんにはわからないよ」  わたしは桜井くんから無理やり顔をそむけると、地面を見つめて言った。 「おれには、おまえの方が輝いて見えるけどな」 「そんなわけない!」  叫びながら桜井くんの方を見ると、桜井くんがわたしのことをまぶしそうに見つめていた。
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