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 ぞんざいにワンピースで拭ってしまったスイカ汁は、きれいな水色を汚してしまい、よけいに由衣を悲しくさせた。  由衣はそのまま、玄関に向かう。そっと靴に足を入れた。  抜け出してしまおう。ちょっとくらいなら、いいよね。  大人の目が離れた隙に出てくる冒険心と、あの親戚の中での居心地の悪さが、由衣を行動に移させた。  小さくサンダルのつま先をトントンと整えて、玄関扉に静かに手をかける。 「……行ってきまーす」  届けるつもりのない挨拶を小さくこぼして、由衣は一人、外に出た。  田舎の夕方は涼しい。  由衣は勝手知ったる近所の散歩コースから、新しいルートを見つけることを目的に歩きだした。  田んぼや畑が広がる西側の道と、山林がそびえる東側の道がある。いつもは西側を歩いてその先にある神社や広場で従兄弟たちと遊ぶことが定番だったが、今日は東側へ行ってみることにした。  子ども一人では絶対に行ってはいけない──そう祖父母から言いつけられてはいたが、くすぶる反抗心がそれを押さえつけた。  大丈夫よ。だってわたし、もうお姉ちゃんだし。  どこか拗ねる気分で心の中でつぶやいて、由衣は山道に入った。  思いのほかきちんと舗装されているし、明るい日差しも木々の間からこぼれていたので怖くはなかった。木々の爽やかさが気持ちいい。由衣は気分が少しだけ良くなって、どんどん奥に進む。  すると、小さな沢を見つけた。  山の合間で遠慮がちに流れている、細く小さな沢だ。水は底が見えるほど透明で、ゆっくりと流れている。せせらぎは、由衣には歓迎の声のように聞こえた。 「わあ、きれい」  蛙の声よりも、このせせらぎを聞いていたい。由衣は近くの平べったい石にお尻をつけると、すぐ後ろに都合よく生えていた大木に背中を預けた。
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