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 気づけば寝ていたらしい。  ふと目を覚ますと、あたりは夕闇に包まれていた。 「うそ、寝ちゃった?」  今は何時だろう。この時になってようやく、キッズ携帯を置いてきてしまったことに気がついた。  時刻はわからない。けれど、夏でこんなに日が暮れているということは、遅い時間だ。おそらく、いつもなら夕飯を食べ終えているくらいの。 ──みんなは、わたしがいないことにもう気づいたかな。気づかないわけ、ないよね。きっと今頃、探し回っているはず……。  しかし山に届くのは、川のせせらぎと遠くの蛙や虫の声ばかり。かすかにでも「由衣、どこにいるのー?」と聞こえればいいのに、そんな声は聞こえやしない。 「気づいて……ないのかも」  なんだか寂しくなって、呟いたときだった。  声が聞こえた。  しかも、泣き声だ。  しくしくと、由衣の寂しさまで助長してくれるような女の子の泣き声が、聞こえてきたのだ。  それは闇の山中で聞くには、あまりにも侘びしくて怖いものだった。由衣はごくりとつばを飲むと、泣き声が聞こえてくる方向へ首をまわした。  聞こえてくるのは沢の下流だ。  そろりそろりと歩いてくと、沢の近くで一人の女の子を見つけた。こちらに背を向きしゃがみこんでいるその子の髪は二つ結びで、白く細いうなじを覗かせている。着ているワンピースまで白くて、まるで……。 (ゆ、幽霊!?)  由衣はビビって足を止めてしまう。けれど、踏んづけてしまった枝がパキッとなり、慌ててどけた足が小石を蹴ったので、由衣の存在は少女に知られてしまう。  振り返った少女と、目が合った。  顔を見れば、同い年くらいの女の子だった。その目は涙で濡れていて人間臭く、幽霊にはとても見えない。 「……あなた、誰」  少女は涙を拭いながら、そう聞いた。そのなかに戸惑いが見えたので、由衣は安心させるように答えた。   「わたし、この近くのおじいちゃんたちの家に遊びに来てるの。えっと……大丈夫?」  何の安否を聞いているのか自分でもわからぬまま、由衣は少女に近づいた。少女は立ち上がって、涙を完全に拭き取ってうなずいた。 「うん。大丈夫」 「そう」 「……」 「……」  沈黙が続いた。  今まで騒がしい中にいたせいか、静けさに耐えられない由衣は、また少女に声をかけた。
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