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「あなたのお母さん、まだあなたを探しているんだよ。きっと違う水辺でさ。案外、おっちょこちょいなのかも」  ニカッと浮かべた笑顔は、下手くそだった。少女に向けた言葉はおそらく、自身にも言い聞かせたかったことなのかもしれない。  ねえ、お母さん。  わたしのこと、探しているよね。  きっと、見当違いなところを探してるんでしょ。バカだなあ。  わたしはここにいるよ。  ここにいるんだよ。  見つけてよ。  ねえ。  わたしを────見つけてよ。 「そっか……そうだと、いいな」 「……うん」  穏やかに返してくれた少女に、由衣の寂しさは少しだけ救われた。  母に見つけられることを望む少女が二人、蛍の沢で並んで座る。  どこか密やかで静謐(せいひつ)な時間が、ただ流れた。  由衣はしばし、目の前の蛍に見入った。神秘的でいて不思議な灯り。死者の魂を宿すとされる光に、目を奪われている。  しかし突然、背中に大きな声が届いた。  それは、待ち望んでいた声だった。 「由衣!」  振り返ると闇の中で母が、懐中電灯を片手に肩で息をしていた。 「由衣……いた! 大丈夫? 怪我はない!?」  近づいて、由衣を抱きしめる。  母以外はいなかった。静乃も柚乃もいなかった。  ただ一人だけの母が、由衣を探して歩きまわり、見つけてくれた。  GPS付きのキッズ携帯にも頼らないで、ただ、一人だけの力で。  その事実はことさらに、由衣を幸福な感情で満たした。熱い涙が、目尻に浮かぶ。母の前で泣くことは久しぶりだったけれど、もう、抑えることはできない。気づけば素直な言葉が、溢れて出ていた。 「お、母さん……ごめ、……黙って出て来て……ごめ、なさい」 「謝らなくていいの。大丈夫。ごめんね。すぐに見つけられなくて」  理由を母は聞かなかった。もしかしたら由衣の寂しさを、感じ取っていたのかもしれない。温かいぬくもりに浸りながら、由衣ははたと、もう一人の存在を思い出した。  そうだ、あの子がいたんだった──── 「……あれ?」  顔を上げて沢を見やる。  けれどそこに、少女の姿はなかった。  先程とは打って変わった暗闇を広げた水辺に、由衣はまた違う気持ちで母の腕にしがみついた。  あの子は──どこ? 「いない……蛍も……」 「蛍?」  由衣がこぼした単語を聞き拾って、母は首を傾げた。 「ここに蛍はいないわよ。昔はいたけど……水が変わったのかな。今はもう、棲んでないんだって」
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