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 不思議な心地で、母と手を繋ぎ田んぼ道を歩いた。  すっかり夜の姿をしている空には、都会では見られない星たちが(きら)めいている。  まるで蛍みたい──そう思うと、あの少女の顔も浮かんだ。  白昼夢のようなあの体験を、怖いとは思わなかった。ただ、ひとつだけの心配が、切なさをともなって由衣の心に残っている。  あの子はお母さんを見つけられただろうか。見つけてもらえたのだろうか。  自分が得た、母との幸福なぬくもりをその手に感じれば感じるほど、少女の悲しみの行方が気になった。 「あ、おばあちゃんだよ」  ふと母が呟いた。たしかに祖母が、ブンブンと手を振りながらこちらに向かってきている。快活という言葉がぴったりな性格の祖母は、大きな声で二人と合流した。 「よかったよかった、無事でいて! 万里が今、ご飯用意してくれてるから。帰ったらゆっくり食べような」  沢のところで母は親戚中に連絡を入れていた。その一報を聞いて、祖母が代表で来てくれたようだ。  祖母も、由衣を責めることはなかった。それがよけいに由衣の罪悪感を強めて、「ごめんなさい」と言わしめる。 「なあに。でも後で、みんなにお礼を言うんだよ。みんな探し回ってくれたんだから。あと、おじいちゃんからきつーい小言があるかもね。覚悟しとくように」 「はあい」  そして母、由衣、祖母の並びになる。  ゆっくりと歩きながら、祖母はやれやれと安心したように笑いつぶやいた。 「それにしても、親子は似るね。同じところへ一人行って、まわりを心配させるんだから」  その言葉に、母が「もう、蒸し返さないでよ」と少しだけ娘の顔をのぞかせた。由衣は母と祖母の顔をきょろきょろ見ながら、会話を聞く。 「忘れられないよ。由衣と同い年くらいのときかね? おじいちゃんから千里(ちさと)がいなくなったって連絡がきたときには、こっちまで真っ青になったさ」  千里とは、母の名前だ。 「わたしが蛍がいたあの沢で見つけたのに、あんたったら『本当のお母さんじゃなきゃいや!』なんて言うもんだから、後妻の身としては忘れられない出来事だったよ、ほんと」 「ちょ、ちょっとお母さん!」  後妻?  由衣が首を傾げたと同時に、母は慌てる。その反応に、祖母はきょとんと二人を見やった。 「何だい千里。あんたまだ、由衣に言ってなかったの」 「うん……」
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