2人が本棚に入れています
本棚に追加
1
田舎が静かで落ちつくなんて、うそだと由衣は思う。
夏夕の田園風景から聞こえてくるのは、蛙たちのけたたましい合唱。蝉の声。ハウリングを響かせる町内放送。縁側で戸にもたれかかりながら、ぼうっと由衣は田舎特有の音を聞いていた。
でも、さらに上を行く騒音は、彼女のすぐそばにある。
「ママママ! お絵かきするから見てて!」
「だめぇ、ママ、この絵本読んで!」
高すぎる声に、由衣は耳をふさぎたくなった。
じろっとそちらを見やると、双子の妹である静乃と柚乃が母を取り合っていた。三歳児らしい独占欲を、ありのままぶつけている。
──べつに、わたしはもう、そんなことはしないけどね。
小学三年生になった由衣にとって、母の取り合いっこなんて幼稚なものだ。でも、少しの羨望があることにも気づいていた。
──ちょっと前までは、お母さんのとなりの位置は、わたしのものだったのに。
長年ひとりっ子でいた由衣にとって、双子の妹ができるという話はとても驚いたが、嬉しいことでもあった。生まれたら思いきりかわいがってあげよう。お母さんを助けて立派なお姉さんになろう。そう思いながら、大きくなる母のお腹を撫でた日々もあった。けれど……。
「ママ見て、くまさん上手でしょ?」
「うん、うまいよ静乃。この赤いリボンがいいね」
「ねえねえママ、これなんて読むの?」
「これは『ぬの』だよ、柚乃。ちょっと難しいね」
約三年前に由衣の生活に現れた双子の妹たちは、いまや当然のごとく母をひとりじめ──いや、ふたりじめしている。右にも左にも、由衣が座れるべき場所はない。
せめて妹が一人ならば、由衣も母のどちらかのとなりにいられたのに。でもそう考えると、とたんに双子である二人に悪い気がして居たたまれなくなる。自分はなんて器が小さい姉なんだ、と自己嫌悪にもなる。
ぎゅっと、抱えていた膝小僧を胸に引き寄せた。
そんな由衣に声をかけてきたのは、台所から切ったスイカを持ってきた万里伯母さんだった。背後に、従兄弟の三兄弟もいる。とたんに室内は、さらにやかましくなった。
「あれ、由衣ちゃんお腹でも痛いの?」
「なんだよ由衣、ゲロゲロぴ〜かあ?」
「こら! 変なこと言うんじゃないの!」
軽く小突かれた従兄弟を横目に、しぶしぶ由衣は母と妹たちがいる大きなテーブルに近寄った。
最初のコメントを投稿しよう!