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三
初めての客は、二十代後半のおとなしい女性だった。
エレナからは、ただデートをすればいいと聞いていたが、デートにも難易度があるのだということを、透は初めて知ることになる。
平たく言えば、難しいデートだった。
相手の女性があまりにうぶで純心すぎて、何もかもが噛み合わなかったのだ。
待ち合わせでは俯かれてしまって、なかなかその場から離れようとしない。質問をしても「はい」としか言わない。身体的な距離を縮めようとすると相手は距離を作る……。
こんなギシギシしたものが、デートと言えるのだろうか――。
そこで透は初めて自分の恋愛遍歴を振り返った。そして、男慣れした女性ばかりと付き合っていた事に気づく。
慣れた女性は透からしてみれば簡単だった。
初めて会う相手であっても、一瞬で仲の良いムードになれるし、視線ひとつで情事へともつれ込むことができるのだから。デートは女性をベッドへ連れ込むための駆け引きでしかない。
けれども、透がレンタル彼氏として相手をする女性は、性的なものを匂わすわけにいかないし、駆け引きも成り立たない。会話のキャッチボールすら難しかった。
あくまでプラトニックなデートのゴールは、ベッドではなくなんなのだろうか――。
いくら考えても、その場で答えは出なかった。
レンタル彼氏として初めてのデートは、透の完敗に終わった。相手の女性は別れの瞬間まで緊張をしていたし、ロクな会話も出来なかった。エスコートくらいは無難に出来ていたろうが、それ以外は大幅にマイナスだったせいで、加点にすらならない。
ひたすら苦い思い出だ。
けれども、デートが終わってしばらくしてから、事務所へ丁寧なお礼状が届いた。透が相手をした女性からで、男性に対して苦手意識があったのに、夢のように楽しかったという内容だった。
女性に対してなにも提供できていないと思っていたというのに、自分が側にいるだけで価値を感じてくれるのはどうしてなのだろう。一体、このサービスに何を求めているのだろう。彼女たちの得たいものはなんなのだろう……。
なかなか答えが出ないせいもあって、嵌っていってしまったのだ。
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