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ちょっとした黒歴史みたいなモノとでもいようか。まぁ、そんなとこだ。
そんなこともあり、恋愛ごとから避けてきたところもあった。
でも実際には、そんなものよりも――外科医になりたい、という幼い頃からの夢を叶えることのほうが、私にとっては、何よりも大事だったからだ。
同じ医大の同期であるとはいえ、窪塚がそんな昔のことを覚えていたことには少々驚いたけれど、藤堂とのことで、窪塚にどうこう言われる謂れはない。
「何よ? だったらどうだっていうのよ? あんたには関係ないことでしょッ! フンッ!」
「否、どうこうというより、ようやく合点がいった。藤堂のことを未だに未練がましく想ってるから、この前、失恋したてだった俺に高梨が同情したってのがよーく分かった」
窪塚の口ぶりからして、これまでの失礼な言動のあれこれがどうやらカマをかけられていたようだというのが窺えて、腹立たしいはずなのに。
それなのに、窪塚から『失恋』なんていう意外な単語が出てきたものだから、腹立たしさなんてどこかに霧散してしまい、驚くと同時に、『同情』なんてした覚えもなく、再び頭の中が疑問符ばかりで埋め尽くされていく。
何度記憶を辿ってみても、窪塚から飛び出してきた単語はどれもこれも、私の頭の中で組み込まれた未完成のパズルには、うまく嵌まらない。
「ねぇ? ちょっと、窪塚。私が失恋したてのあんたに同情したってどういうことよ?」
「さっきも覚えてないようだったし。もしかして、この前のことほとんど覚えてないのか?」
「……うっ」
「やっぱり、図星のようだな。あぁ、まぁ、相当酔ってたしなぁ。敵視してた俺に仕事や家族の愚痴言って絡んでくることからして、高梨にとったらあり得ないわなぁ」
「……」
私、窪塚に自分から絡んで、仕事や家族のことまで愚痴ったりしたんだ。
挙げ句、窪塚に処女まで捧げてしまったなんて……。
私ってば、いくら酔ってたからって何やっちゃってんの? 信じらんない――。
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