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けれどもそれは一瞬のことで、ハッとした窪塚が頭をぶんぶん振ってから、私の両肩を掴んで正面に迫ってくると。
「俺、熱がぶり返したとかじゃねーよな? 幻覚でも、夢でもないんだよな?」
私の手を取って自分の額へと宛がった。
どうやら熱が出ているせいで幻覚でも見てるんじゃないかと思ったようで、それを確かめようとしているようだ。
「うん。熱はないし、幻覚でも夢でもないよ」
高熱を出してたようだから、心配になる気持ちだって理解できる。
唖然としつつもそう返した私に対して、窪塚は、
「けど、こんなふうに、鈴のことを抱きしめることができる日がくるなんて。なんか、今でも夢みてーで、いつか醒めてしまいそーで怖い」
苦しげな声音で、いつになくそんな弱気なことを言ってきた。
そして尚も私の身体をぎゅぎゅうっと強く抱き竦めてくる。
これまでの私なら、きっと、何弱気なこと言ってんのよ、バッカじゃないのッ! くらいのキツい一撃を放っていたに違いない。
けれども、もうずいぶんと窪塚のことを好きになっているらしい私は、そんな弱気な発言でさえも、愛おしく想ってしまっている。
だってそれだけ窪塚が私のことを想ってくれている気持ちの表れなのだから無理もない。
ようやく想いが通じ合い、本物の恋人同士となったのだ。
父親との約束を守ろうとしてくれている窪塚の気持ちだって理解できるし、嬉しいとも思う。
けれども、これから先の期待感に、気持ちが昂ぶらない訳がない。
大好きな窪塚とは、もうずっとずっと離れずにくっついていたいくらいだ。
一刻も早くこの想いを窪塚と一緒に今一度しっかりと確かめあいたい。
そうして固い絆でしっかりとひとつに繋がりあっていたいと希ってしまう。
私の頭の中は、そんな想いに埋め尽くされていた。
生まれて初めて、本気で好きになった人である窪塚からの言葉はどんなモノであっても、特別で、どんなモノよりも、この胸を熱くする。
窪塚への想いが溢れ出してもう止まりそうにない。
気づけば口からも、窪塚への想いが溢れ出てしまっていた。
「私はこんなんじゃ全然足りない。もっともっと窪塚のことを近くで感じたいし、私のことももっともっと近くで感じて欲しい。夢じゃないんだって思えるくらい、今すぐに窪塚で一杯満たして欲しいって思っちゃうくらい窪塚が好き。大好き」
私の言葉を耳にした途端、窪塚の身体が硬直する様がピッタリと重なりあった身体から伝わってくる。
そしてすぐに、ハッとした様子の窪塚から、苦笑交じりの声が届いて。
「さっきは、親父さんに許しを得てからって言ったけど、もう今さらだよな」
「うん、そうだよ」
即答した私のことを窪塚は愛おしそうに見つめ返してくる。
しばし見つめ合い微笑み合ったあとで口を開いた窪塚からは、
「やっぱさっきの言葉は撤回する。俺も。俺ももっともっと近くで鈴のことを感じたいし、俺のことも近くで感じて欲しい。夢じゃないって思えるくらい一杯満たしたい。それくらい鈴が好きだ。大好きだ。もう一生離したくない。愛してる」
私が放った熱量よりももっともっと熱のこもったモノが戻ってきた。
所詮はただの言葉にすぎない。
心が伴っているかなんて証明のしようもない。
けれども心から通じ合えているような気がしてくるのだから、恋の威力というものは本当に不思議なものだ。
そう思ったら、なんだか可笑しくなってきた。ふっと笑みを零せば、窪塚も同じように微笑んでいて。
「一緒だね。メチャクチャ嬉しい」
「ああ。俺もメチャクチャ嬉しい」
気づけば私たちを取り巻く空気がより一層、甘いものへと移ろいでいる。
私と窪塚は、どちらからともなく見つめあい、どちらからともなく口づけを交わしあっていた。
「……んっ……ふぅ……ンンッ」
やがて口づけは深まって、互いの舌を絡めあっているうち、身も心もすっかり蕩けていた。
いつしか私は、窪塚の広くて逞しい胸にぎゅっと縋るようにしがみついてしまっている。
そんな私の身体を窪塚は逞しい腕の中に愛おしそうに、それでいてしっかりと包み込んでくれていた。
都会の夜景を一望できる静かなリビングダイニングは、二人の荒い息遣いと熱く甘やかな吐息と溢れくる唾液とが、くちゅくちゅと混ざり合う水音で溢れかえっている。
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