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窪塚との甘い甘い口づけに酔いしれていると不意に窪塚の唇が離れていってしまう。
蕩けた頭が名残惜しさを感じるよりも先に、窪塚から苦しげな声音が耳に届いたのだが。
「あー、ヤバい。鈴が可愛すぎて、危うくここでイきそうになるとこだった。寝室に行くぞ」
「……へ?」
理解なんて追いつかない。
つい先ほどまでの甘やかだった雰囲気にはそぐわない色気どころか間抜けすぎる声を漏らしていた。
そのことを悔やんでいるような猶予も、ましてやキスを中断されてしまったことに文句を零しているような暇もなく、窪塚によって横抱きに抱え上げられてしまっている。
いわゆる、お姫様抱っこだ。
「ーーッ!?」
驚きすぎて言葉も出ない。
初めてのデートの後、初めてこのマンションを訪れたときにも、お風呂上がりにされたことはあった。
けれど、あの時はセフレだったし、恥ずかしさが勝っていて、感動しているような心情でもなかったけれど、今は違う。
本物の恋人同士になって初めてのお姫様抱っこだ。
足早に扉をくぐって寝室へと向かって一目散に歩いていく窪塚の腕の中で、私はキュンキュンと胸を高鳴らせている。
そんな私は、窪塚の胸にぎゅっと顔を埋めて窪塚のぬくもりと匂いとを目一杯堪能してしまっていた。そこに。
「おい、鈴。どうしたんだよ? 怖いのか?」
急に歩く速度を落とした窪塚から心配そうな声がかけられた。
どうやら窪塚は私が怖くてしがみついていると思っているらしい。
そして怖がっている私のことを案じて気遣ってくれているようだ。
たったそれだけのことが、どうにも嬉しく思えてくる。
そしてそのことを窪塚にもわかっていて欲しいと思ってしまう。
今までずっとずっと想いをひた隠しにしてきたからかもしれない。
その反動からか、窪塚への想いが溢れて止まらなくなっているようだ。
私は、これまでには考えられないようなことを吐露してしまうのだった。
「ううん、全然怖くなんかない。窪塚のことを少しでも近くに感じていたくて、くっついていただけだから気にしなーー」
けれども、その言葉も最後まで言い切る前に、窪塚から、
「そんな可愛すぎること言われたら、ヤバいって。あー、くそッ! もうどうなっても知らねーからなッ!」
さっきよりも苦しげで余裕なさげな声が返ってきた。
そうして、粗野な口ぶりとは裏腹に、大事な壊れ物でも扱うようにしてしっかりと抱え直すと、私の顔を覗き込んでくる。
私が何を言われてしまうのかと、おずおずと目線を上げると、今まで一度も目にしたことがないような、蕩けるような優しい眼差しで私のことを見つめている窪塚の端正な顔が待ち構えていた。
私は心ごと囚われてしまったように動けない。
ただただぽうっと呆けたままで窪塚のことを見つめ返すことしかできないでいる。
そこへ、ふっと柔らかな笑みを零した窪塚からかけられた、優しい甘やかな囁き声までが、私の鼓膜だけでなく心までをも打ち振るわせるのだった。
「まったく、人の気も知らねーで。けど、メチャクチャ嬉しい。俺の前で、鈴が笑ったり、泣いたり、怒ったり、強がったり、照れ隠しでツンとするとこも、そうやって不意に素直なこと言ってくるとこも。鈴の見せる表情や仕草のどれもこれもが、メチャクチャ可愛くて堪んねーよ」
「////」
窪塚からの言葉に、照れもあるが、嬉しさと一緒に熱いものがこみ上げる。
自分の長所も短所も何もかもひっくるめて受け入れてくれたこともそうだし、可愛げのない私のことを可愛いなんて想ってもらえていることもそうだ。
嬉しいと同時に、夢でも見ているようで、まるで現実味がない。
ぽうっとしているところに、僅かに困ったような表情を垣間見せた窪塚の端正な顔がキリリとした表情に豹変し、今度は低い声音を響かせた。
「けど、今からは俺だけだ。そんな無防備なとこ、誰にも見せないで欲しい。ずっとずっと俺だけだからな」
「ーーッ!?」
「おい、こら、わかってんのかよ?」
その直後、未だ夢うつつでぽうっとしている私に対して、窪塚がムッとして放った独占欲丸出しの言葉で、ようやく夢でもなんでもないんだ。そう思うと、もう嬉しくてどうしようもなくなってくる。
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