#9、純愛ラプソディ

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「うん。けど、そんなに心配しなくても、私、全然モテないから大丈夫だってばッ! けど、そんな風に言ってもらえてメチャクチャ嬉しい」  私の言葉を耳にした瞬間、窪塚は眉を顰めて、盛大な溜息を吐き出してから、 「……これだから、無自覚天然記念物は。俺が研修医になってから、何度しつこい取り巻きのこと蹴散らしてきたかも知らねーで。ったく」 耳に届かないほどの潜めた小さな声でごにょごにょと独り言ちてきた。  ニュアンスからして怒っているらしいことが窺える。 どうやら心配性らしい窪塚のことを少しでも安心させようと放った言葉は、やぶ蛇だったらしい。  ちゃんと嬉しいってことも伝えたはずだったんだけどな。  けれど、内容は全くと言っていいほど聞き取れなかった。 「……え? 何? 聞こえないんだけど」  不思議に思った私が首を傾げてキョトンとしているところに、 「なんでもねーよ。鈴はこのままずっと変わらないでいてくれたらいいってことだよ。もうヤバいから行くぞ」 窪塚の声が再び届いたけれど、結局さっきのことについては教えてもらえないままだ。  けれども、言ってこないということは、さほど大したことではなかったのだろう。  私ももうこの先のことしか頭になかったので、窪塚に素直にコクンと頷くことで返答した。  後は窪塚にすべてを委ねるように胸にしっかりとしがみついていることしかできないでいる。  そうして辿り着いた寝室のベッドに、そうっと優しく横たえられた私は、窪塚にすべてを委ねるため、瞼を閉ざし、今か今かとその瞬間を待ち焦がれているのだった。  やがてベッドが緩やかにたわみ、身体が僅かに沈む感覚がして、いよいよなんだと思うと、胸がドクドクと苦しいくらいに高鳴って、今にもはち切れそうだ。  閉ざした瞼の裏側が翳って、そうっと身体の上にのしかかってくる窪塚の重みが心地いい。  けれど窪塚に組み敷かれ緊張感がピークを迎えたことで、意図せず身体に力が入る。  そこへ窪塚から不意に名前を呼ばれ、おもむろに目を見開くと。 「鈴」 「////……?」  眼前に迫っていた窪塚の端正な顔に翳りが差し、漆黒の瞳もゆらゆらと揺らいでいるように見える。  どうしたのかと思っていると。 「怖いのか?」  ーー緊張してただけだ。怖いはずがない。  表情同様の心配そうな声音で訪ねられたことで、私が怖がっているのだと誤解して気遣ってくれていることがわかった。  たちまち緊張感に侵食されそうだった心が凪いでいく。  私の反応ひとつを気にかけてくれて、こうして気遣ってくれることが素直に嬉しかった。  組み敷かれ密着していることで、窪塚に余裕がないことは明らかだ。  なのに、自分のことよりも私のことを優先しようとしてくれている。こんなに嬉しいことはない。 「////……緊張してただけ。けど、こうしてたら全然なんともない。すっごく落ち着く」  窪塚の背中にしっかりとしがみつき、広くて厚い胸板に顔を擦り寄せると、ぬくもりと一緒にトクントクンと通常より速い速度でリズムを刻む心音が伝わってくる。  本当に、どうしてなのかと不思議なくらい安心できる。  その途端、息を呑む素振りを覗かせた窪塚の分身がよりいっそう猛々しい反応を示し、いよいよ余裕がないことが窺える。  そこへ、いつぞやのように私の身体を覆い尽くすようにしてぎゅうぎゅうに抱き込んだ窪塚から。 「そんなに煽るなよ。精一杯優しくしてーのに。イチイチそんな可愛い反応されたらヤバいだろ」  苦しげに絞り出すような声音で紡ぎ出されたその言葉が胸にぐっとくる。  あたかも心臓を射貫かれたような心地がする。  そういえば、これまでもそうだったような気がする。  いつもいつもこういう場面では、決まってドSっぷりを遺憾なく発揮してくるクセに、不意にこうやって優しく気遣ってくれていた。  ピルを服用してるのだから、避妊なんて必要ないのに、一度も欠かさなかったし。  振り返ってみれば、要所要所でこうやって、余裕がないながらも、いつもいつも私のことを優しく気遣ってくれていた。
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