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でも、そんな天才なんてそうそう居ないだろうし。周りには、勉強なんてやってませんなんて言っておいて、きっと陰では死ぬほど努力していたに違いない。
クラスに一人は居たわよね。そういういけ好かないタイプが。
否、そうじゃないのかもしれないけど、そうでも思わなければやってられない。
この感情が、凡人ゆえの僻みや妬みだってことは自分でもよくわかってるけど。
兎に角、いつも澄ました顔でしれしれっとしていて、そのクセ、容姿がいいから女子たちからもモテて、どっからどこを見ても劣ったところがない、完璧すぎるこの男の存在自体、そもそも気に食わなかったのだ。
それもこれも弱点を握られている上に、お持ち帰りされ、セフレなんかにされてしまったんだからなおさらだ。
ーーあーもう、最悪。
よりにもよって、当直明けに、どうしてこの男が現れるかなぁ。
適当に受け流して、気づかれないようにフェードアウトするに限る。
ーーうん。そうしよう。
幸いなことに、この男がおじさんの長男である樹先生のオペの助手をしていたことから、おじさんも珍しく真面目な医者モードに切り替わっているようだし。
「おう、それはまた大変だったねぇ。樹先生からもあのオペは難しいとは聞いてたんだけど、どうだった?」
「ええ、確かに術野も狭くて大変でしたが、無事成功しました。思ってた以上に長丁場でしたが、いい勉強にもなりましたよ」
一方、あの男の方はというと、『脳外の貴公子』なんて呼ばれてもてはやされてる自覚故にクールぶってでもいるのか、いつもは素っ気ないというか、他人には関心のないようなポーカーフェイスを決め込んでいるのだが。
この前の様子からして、結構チャラかったし、相当遊んでるに違いない。
それ以前に、私相手だと、下にでも見られているのか、口だって態度だってメチャクチャ悪いし。
けどさすがに院長の前だと、口調も態度もまともというか、爽やかな好青年を装っているようだ。
ーーフンッ!
どうぞいつまでも好青年の皮を被って、オペの話に花を咲かせてくださいな。
凡人の私は帰ります。さようならーー。
いつしか正面で向かい合ってオペ談義を始めた二人からそうっと背を向けて、更衣室へと足を一歩踏み出しかけた時のこと。
「あっ、そういえば、お父さん元気にされてる?」
おじさんが急に思いついたようにそんなことを言いだして。
「はい。まだまだ現役でメス握ってますよ」
窪塚の口ぶりからも、どうやら窪塚の父親も外科医らしいことが窺える。
そのまま帰っていればよかったものを、好奇心に勝てなかった私は二人に向けて、思ったまんまのことを口にしてしまうのだった。
「窪塚のお父さんって、もしかして外科医?」
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